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コロナ禍による世界的な危機の中、日本には何ができるのか

世界の新型コロナ対応を俯瞰する(6)日本の役割

情報・テキスト
ウイルスの抑え込みと経済活動の制限は深刻なジレンマとなっており、新興国では大きなダメージを負っている。こうして起こる悪循環を抑えるためにも国際協力や強い国のリーダーシップが必要となるが、アメリカにその役目は期待できない。では世界のイニシアティブを取るのは中国なのか。また、そうした中で日本が担うべき役割とは何か。(全6話中第6話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:11:29
収録日:2020/04/09
追加日:2020/05/30
キーワード:
≪全文≫

●経済問題とウイルスの抑え込みという二つの危機


―― ヨーロッパでは、気分は鎖国のような感じですよね。国境線を封鎖して、隣の街に行くのもダメだというような管理を始めてしまうと、EUは成り立たないでしょう。

小原 ええ。EUは本当に危機的な状況ですね。

―― 危機的な状況ですよね。色々な意味で、ヨーロッパには行けなくなってしまったなという感じです。ヨーロッパから帰ってきた人の話をメディア等で見聞きすると、かなりリアルです。これを元に戻すのは、かなりしんどいのではないのでしょうか。

 もともとグローバリエーションによって富の格差が拡大し、社会の大部分で不平不満が広がっていました。グローバリゼーションでは勝者に富が集中するので、相当数の人たちが面白くないと思っていたところに、今回のコロナウイルス問題が起こりました。その結果、国家というよりも、ある種のナショナリズムに火をつけてしまったところがありますよね。レイシズムのような何かが、本当に始まったかのような感じです。

小原 だから今回の危機によって、経済をどうするかというプレッシャーを政治家が受けることになります。それと同時に、このウイルスをなんとか抑え込まないといけないという、もう1つの危機があります。このジレンマが大変です。しかも、後者をずっと続けていなければならないのですが、そうするとどうしても前者の経済問題に手を打てなくなってしまいます。

 つまりソーシャル・ディスタンシングや国境封鎖をどうするかというのは、まさにグローバル化の時代に起きている現実です。そのためこれは、止めるか止めないかの問題ではなく、もう現に起こっていてしまっています。その中で経済が動いているので、これを止めてしまうと、自ら自分たちを痛めてしまうことになります。しかし、経済を止めないとウイルスが抑えられないとなると、やらざるを得ません。他方で経済の停止をいつまでも続けていると、その結果、犠牲者が出ます。こちら(経済面)の犠牲者が実は大きいかもしれません。


●脆弱な地域では問題がより深刻化する


小原 実は先進国以上に、途上国や新興国にとって、こうした経済面でのダメージが大きいのです。例えば、安全保障の問題をとっても、イエメンやシリアのような紛争地域のほうが、実は今回の件は非常に大きい問題だと思います。一方で、アメリカはそうした地域から、プレゼンスを退いています。

 今、「三密」を避けることが重要視されていますが、典型的なのがアメリカの軍隊です。例えば、航空母艦や原子力空母はどこへも寄港せず地球を何十周もできます。この中に何千人もの人たちが閉じ込められていて、1つの街をつくっているも同然です。ここで感染が起こったら、もう軍事力や抑止力として機能しなくなってしまいます。

 ドナルド・トランプ大統領の一国主義で、アメリカが世界から軍事力を含めたプレゼンスを退いているという状況下において、今回のコロナ問題です。バラク・オバマ大統領の時に、アメリカは世界の警察官を辞めると言いましたが、事実上それはできなくなってきています。こうした時に、コロナが追い討ちをかけているということです。

 そうすると、脆弱な地域のような、いわゆる「失敗国家」で紛争が激化します。そこで弱者が追い払われ、難民問題が出てきます。これはヨーロッパを変えた大きな原因です。


●国際的な文脈で日本の役割を考えなければいけない


小原 今後は、こうした悪循環が起こる可能性があります。これを抑えるためにはどうしても国際協力や強い国のリーダーシップが必要なのですが、それが今のアメリカにはありません。アメリカには期待できないのです。中国がその役割を担おうとしていますが、その裏に透けて見えるのは、中国なりの利益なのです。

 そうした中で、日本には何ができるのでしょうか。もちろん、日本の権益対策や経済の正常化を考えなければなりません。しかし同時に、そうした広い国際的な文脈でも、日本の役割を考えなければなりません。中長期的には、先ほど言われたように格差の問題が非常に深刻です。この格差の問題に取り組むために、日本はこれまでもODAを行ってきました。ただし、日本にいつまでも財政力があるわけではありません。そうした中で、いかに格差の問題に取り組んでいくのでしょうか。やはり日本だけではなく、志を同じくするような国々(ライク・マインデッド・カントリー)が一緒になって立ち向かっていかなければなりません。こうした協力は、この危機が終わる前から、連帯して実現していかなければなりません。

 そうした議論をしていくためにも、G7やG20などのシステムや国連を使わなければならないのですが、残念ながらこのウイルスは、そうした会合や接触を抑えようとする方向に動いています。さき...
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