文明語としての日本語の登場
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
古代日本語の発音はなぜわかるのか…ヒントは中国の唐詩
文明語としての日本語の登場(2)文字社会の成立―漢字と発音―
釘貫亨(名古屋大学名誉教授)
日本で奈良時代に文字が使われるようになったのは、律令国家の成立が社会的急務だったからである。戸籍や税務など、公文書は文字によって成り立ち、国家社会の秩序維持は文字に依拠している。では当時の発音はいかにすれば復元できるのか。万葉仮名の発音には、「唐代詩」という強い味方がついていた(全6話中第2話)。
時間:9分56秒
収録日:2023年12月1日
追加日:2024年3月15日
≪全文≫

●文字社会の成立と律令制


 漢字というのは中国語を表すための文字で、日本語とは縁もゆかりもありません。だから、隣にギリシャの都市国家があれば、日本人はギリシャ文字を使ってもよかったし、あるいは隣にローマ帝国があればローマ字を使ってもよかった。そういう点では、われわれが漢字を押しつけられているのは偶然の話で、これを換骨奪胎して万葉仮名に変えて、日本語を表現するようにした、ということは大変な離れ業であったと考えられます。

 とにかく、これで「日本語」を完全に書けるようになったわけです。それが奈良時代だということです。この土台に何があったかというと、「律令国家」という当時の古代国家の成立を急いだ社会情勢があったと思われます。

 「律令」というのは、簡単にいうと文字で書かれた基本法制のことで、文字で書かれているということが大変大事です。律令の基礎には、たとえば「戸籍」があります。戸籍というのは、現在の呼び方でも戸籍です。それから「計帳」というのは税務台帳で、こういうものを基本にした公文書行政があるわけです。そのため、漢字を十分に使いこなそうとする律令官人たちの長年のトレーニングがありました。これがとくに進んだのが、律令国家草創期ということになります。

 国家や社会の秩序維持というものは、文字に頼らなければいけない。文字なしには、日本の社会の秩序維持が1日も保たない。これは今もそうで、文字なしにはバスにも乗れない。もちろん文字のほかにお金がいりますが、基本的には文字なしには社会に参加できない。こういう文字社会というのはこの時期に出てくるわけです。

 日本は元々無文字社会であり、日本人が「倭人」と呼ばれた頃は文字など知りませんでした。それが律令国家草創期になって、律令官人たちが公文書を使うことにより、国家・社会の秩序維持を文字に依存するようになった。これはまさに驚天動地の大変化だったことになります。

 このような文字社会が土台にあり、律令官人や僧侶などの知識人が漢字と格闘しながら、ついに自分たちの言葉である日本語を書き記せるようになったということになります。


●発音の「回路」で要となったのは唐代詩


 そこで次は発音問題として、どうして発音が歴史的に遡れるかという問題に入ります。


スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か
ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景
池上英洋
和歌のレトリック~技法と鑑賞(1)枕詞:その1
ぬばたまの、あしひきの……不思議な「枕詞」の意味は?
渡部泰明
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫
百人一首の和歌(1)謎の多い『百人一首』
『百人一首』の歌が選ばれた理由とは?今も残る3つの謎
渡部泰明
日本画を知る~その技法と見方(1)写実・写意・写生
日本画で大切な「写意」「写生」の深い意味とは?
川嶋渉

人気の講義ランキングTOP10
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境にどう対峙するか…西洋哲学×東洋哲学で問う知的ライブ
津崎良典
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(3)秀吉出世譚の背景
武闘派・秀吉として出世…織田家中で一番の武略者の道
黒田基樹
編集部ラジオ2025(32)哲学者たちが考えた平和追求
反EU、反国連の時代に再考!「哲学者たちの平和追求」
テンミニッツ・アカデミー編集部
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想
平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?
川出良枝
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(4)葛飾応為の芸術と人生
親娘で進歩させた芸術…葛飾応為の絵の特徴と北斎との比較
堀口茉純
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(5)恐るべき台湾への「浸透」
浸透工作…台湾でスパイ裁判が約70件、それも氷山の一角
垂秀夫
本当によくわかる「量子コンピュータ入門」(2)コンピュータの歴史
量子コンピュータの転機となった1990年代の発見とは何か
武田俊太郎