●ありのままを写す「写実」、本質を写す「写意」
皆さん、こんにちは。日本画家の川嶋渉と申します。よろしくお願いいたします。京都市立芸術大学でも日本画を教えています。
日本画の世界でとても大切にしている言葉に、「写意」という言葉があります。一方、写意に対し、絵画の中でよく使われる言葉として「写実」があります。これは一般的にも多く使われている言葉なので、皆さんよく理解していると思いますが、「実を写す」と書きます。この「実」とは、「真実」のことです。絵の中にありのままを写す、ということが、非常に多くの人の心を捉え、共感を生むということで、非常に大切にされている言葉です。
もう一つの写意ですが、これは日本画を含む東洋絵画の中で使われてきた言葉で、「意を写す」と書きます。「意」とは、例えば、自分の意見であるとか、ものの意味や本質までも描き写そうではないか、という意味で使われています。では、この写意を画家たちや学生たちが果たしてどうやって日本画の中に出力しようとしているのか、ということを少しお話ししたいと思います。
●「写生」とは、ものの本質に迫るための方法
「実を写す」ということであれば、例えば、事細かく物事の現象を写し取ればいいのでしょうが、写意とは自分の意見やものの本質に迫ろうとするわけです。そのときに日本画家がとても大切にしていた行為の中で、一番代表的なものが「写生」です。
写生とは、子どもの頃の「写生大会」などといった時に使われてきた言葉ですが、本当の意味はもう少し深いところにあります。写生は「生まれる、写す」と書きますが、この「生まれる」とは一体何が生まれるのか、ということですね。
写生とは、現場に出向き、その対象物としっかり対峙し、その姿を写し取ることはもちろんですが、そのときに生まれた何かを、スケッチブックの中に写し取るということなのです。ですので、例えばその時に風が吹いていたとか、いい花の香りがしたね、といったことまでもしっかりと記憶に留め、ただ記憶だけではなく、画中にどうやって入れていこうか、ということになっていくのです。
写生は、私たちが学生の時にも「写生をしなさい、写生をしなさい」と、口が酸っぱくなるほど何度も先生から言われ、教わってきた言葉ですが、これは「現場に出向きなさい」ということです。学生はかっこいい作品...