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絵画のカテゴリーには「画家の目線」が関係する

日本画を知る~その技法と見方(3)画家の目線とカテゴリー

川嶋渉
京都市立芸術大学 美術学部日本画研究室 教授
情報・テキスト
「風神雷神図」 俵屋宗達
(Wikimedia Commons)
日本画家で京都市立芸術大学美術学部日本画研究室教授・川嶋渉氏が、絵画のカテゴリーと画家の目線の関係について論じる。川嶋氏は、「山水画」「花鳥画」とは、単に山や風景、花や鳥といったモチーフで区別されるものではないと言う。モチーフそのものよりモチーフとの距離感が関係するのだ。(全3話中第3話)
時間:05:48
収録日:2017/11/13
追加日:2018/01/31
カテゴリー:
≪全文≫

●絵画のカテゴリーとは画家とモチーフの距離感の違い


 「日本画」は、もともと明治時代に使われるようになった言葉です。それ以前にもたくさんの絵はありましたが、それらは、もちろん(中国)大陸から伝わった画法や技法、もしくは思想の下で展開されてきたもので、日本画は中国とはまた別の展開がなされてきました。

 例えば、有名なものとして、「琳派」をご存知でしょうか。自然のモチーフを装飾的に描いたとして非常に有名であり、世界的にも「RIMPA」という言葉が使われるようになっています。この「装飾的に描く」ということですが、中国から伝わったものの中に、「山水画」または「花鳥画」があります。

 山水画は、いわゆる山の景色を描いたものとお思いでしょうし、花鳥画は花や鳥といった自然のものを描くというイメージでしょう。もちろん、そういったものが描かれているものを山水画、花鳥画といったカテゴリーに分けてきたのですが、実は山水画家が花鳥を描かないのかと言うと、そういうわけではありません。では、花鳥画家も山をモチーフにしないのかと言えば、実はそうではありません。もう少し深く掘り下げていくと、山水画ではモチーフと画家との距離が非常に遠いのです。


●モチーフとの距離が遠い山水画、近い花鳥画


 そのモチーフとの距離だけに視点を当ててみましょう。山を、非常にエネルギーのあるもの、もしくは神様のようなものとして崇めた時代は、山を描くことには非常に意味がありました。単に山が大好きだと思って描いてきたわけではないのです。その中に非常に神秘的なものを感じた画家は、ある程度の距離を縮めて描かずに非常に遠くの景色として、近寄り難い存在として山を描いてきました。そのようにして生まれたのが山水画です。ですから、山水画ではモチーフと画家との距離が非常に遠い。逆に花鳥画では花や鳥、もしくは小動物、虫といったものを描くので、画家とモチーフの距離が非常に近い。例えば、手に取って愛でる距離なのですね。


●花鳥画の目線で風景を描いてみる


 私は普段、花も描きます。当然、風景も描きますし、水辺の景色といったものも描きます。花鳥画の目線で、例えば水辺の景色、風景を描いたらどのようになるだろうか、というようなこともします。山水画家が花の作品を描くのですが、これは非常に遠いモチーフとして描くということよりも何か一つの塊として、大きな存在として描いている、そういう花の絵を見たこともあります。

 私が風景を描いてみたり花を描いてみたりする中で、私の先輩である画家の先生が「川嶋くんは花鳥画家だよね」と常に言ってきます。「先生、私は風景も描いているんですが・・・」と言うと、「いやぁ、川嶋くんは花鳥画家の視線、目線を持っているんだよ」とおっしゃるのです。その目線で風景を描くからこそ、新しい目線の作品が生まれているのではないか、ということを教わりました。「では先生、私が花鳥画の目線で山水画を描くとどうなると思いますか」と質問をしたら、「きっと面白い作品ができるだろう」と言っていただきました。


●カテゴリーに関係するのは「柄」ではなく画家の目線


 私も若い時には、絵に描かれている「柄」がカテゴリーになっているというように実は誤解していました。それを最近つくづく感じるようになりました。カテゴリーに関係するのは、もともとその人が持っているものに対する目線なのです。私は探しものが大好きです。宝探しが大好きで、骨董市が好きなのです。私のことを「花鳥画の目線を持っている」という先生は、「川嶋くんはまるで骨董市で、お宝を見つけてくるかのような目線を持っている。その目線で花や虫や、まして景色までも描いてくる」と言っていただいています。

 カテゴリーとして、花鳥や山水、風景という言い方をしますが、実は描かれている柄の問題ではなく、その画家の視線、目線といった写意、絵に描かれている「意」の中にそのヒントが隠されているというのが、カテゴリーだと思っています。
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