刀匠・松田次泰に聞く―私の刀工修行
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
刀鍛冶に必要な道具は「頭」しかない
刀匠・松田次泰に聞く―私の刀工修行(2)徒弟制度
刀鍛冶の仕事というのはずっと火と鉄に向き合う仕事だが、刀匠・松田次泰氏はけがをしたことはないのだろうか。その質問を向けると、話題は昨今の危機管理にまで及ぶ。刀工に限らず職人の世界を律していた「ことわざ」や「徒弟制度」は、現在のブラック企業とはまったく異なる軸に支えていたようだ。(全2話中第2話)
時間:7分07秒
収録日:2017年3月22日
追加日:2017年12月10日
カテゴリー:
≪全文≫

●小さいやけどをしていると、大やけどはしない


質問 これまでに火の粉で大やけどをされるなど、危険な目に遭われたことはありますか。

松田 ありません。私は鍛冶屋らしい鍛冶屋ではないので、危ないことはしません。石橋を叩いて、人を渡らせておいて、自分は渡らないタイプです。ただ、小さなやけどなどは、弟子時代から強制的にさせられます。

 鍛冶場へ子どもたちが見学に来ることがあります。今、こういうところで何か体験させようとすると、まずヘルメットをかぶり、ゴーグルを着け、軍手をはめて、耐熱性に高い作業服を着用するという準備から入ります。そうでないと、イベントができなくなっているのです。

 でも、私のところへ来るときは、「手袋や軍手、ヘルメットはやめてくれ」と言っています。素手でやってほしいからです。今のイベントは親が同伴でないとできなくなっているので、母親が「やけどをしたら、どうするんですか?」と聞きます。「やけどはしてくれ」と返事をします。小さなやけどを経験すると、大きなやけどはしないようになるということです。

 近くに川崎製鉄がありますが、工場などでも、コンピュータ化されているところの事故は、大事故になりがちです。小さなやけどを強制的にさせられると、危ないところには近づかなくなります。でも、今ははなから安全なので、「危ない」ものがどういうものか分からない。それが大きな事故につながることになるということです。


●「けがは自分持ち」の徹底と、親方の態度


松田 弟子が親方のところでけがをするとしたら、どういうことがあるのか。昔から「けがは自分持ち」と決まっており、最初に体験させられます。古い鍛冶屋さんのところへ行くと必ず出る話です。作業をする近辺に、わざと鉄が赤くなっているものを置いておく。昔は、弟子は草履を履かせてもらえなかったので、はだしでした。そういう状況だと、気を付けますよね。そういう点で、安全管理については昔の仕事の方が合理的だったといえるのではないでしょうか。


●「技を盗め」は、決して見せてはくれないから


松田 例えば、弟子が作業しているときに親方が入ってきたとします。当然作業中の物を「見せろ」と言いますが、そのときに弟子が普通に渡したのでは、親方は絶対に受け取りません。「水に漬けろ」と言います。弟子を信用していないのです。必ず目の前で水に...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
音楽はなぜ時代を映し出すのか?…音楽と人の歴史の関係
片山杜秀
百人一首の和歌(1)謎の多い『百人一首』
『百人一首』の歌が選ばれた理由とは?今も残る3つの謎
渡部泰明
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫
ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か
ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景
池上英洋
『源氏物語』を味わう(1)『源氏物語』を読むための基礎知識
源氏物語の基礎知識…人物関係図でみる物語の流れと読み方
林望

人気の講義ランキングTOP10
編集部ラジオ2025(32)哲学者たちが考えた平和追求
反EU、反国連の時代に再考!「哲学者たちの平和追求」
テンミニッツ・アカデミー編集部
逆境に対峙する哲学(3)修行・物語・語りの転換
武士道に学ぶ自己訓育――幻想としての順境に抗するために
津崎良典
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(3)秀吉出世譚の背景
武闘派・秀吉として出世…織田家中で一番の武略者の道
黒田基樹
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想
平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?
川出良枝
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
本当によくわかる「量子コンピュータ入門」(2)コンピュータの歴史
量子コンピュータの転機となった1990年代の発見とは何か
武田俊太郎
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(5)恐るべき台湾への「浸透」
浸透工作…台湾でスパイ裁判が約70件、それも氷山の一角
垂秀夫