刀匠・松田次泰に聞く―日本刀のつくり方
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
次の動画も登録不要で無料視聴できます!
「扱いにくさ」を利用することで良質な日本刀ができる
第2話へ進む
技術は一度途絶えてしまうと再現はできなくなる
刀匠・松田次泰に聞く―日本刀のつくり方(1)和鉄の活用
「下鍛え」の準備工程を延々と続ける刀匠・松田次泰氏。その動きを見ていると、材料の中から火床に乗せるもの・乗せないものの選別が行われている。いったい何を見て、刀匠は鉄をより分けているのだろうか。そんな素朴な疑問に刀匠・松田次泰氏は真摯に答えてくれた。(全7話中第1話)
時間:9分48秒
収録日:2017年3月22日
追加日:2018年1月3日
カテゴリー:
≪全文≫

●製法次第で使える部分が増減する玉鋼


質問 鉄を火床(ホド)に乗せるときに、いくつか手に取って選ばれていましたが、何を見て選別されているのでしょう?

松田 今は「下鍛え」の準備をしているのですが、はじいたものは見てもらうと分かるように、粒子が粗い部分です。粗いところを使うと、刀がもろくなります。だから、原料の玉鋼のうち3分の1ほどは使い物になりません。崩れた状態で買うと一つ一つ目で見て選べますが、玉鋼の状態で買うと、粗い部分だけを取り除くことができず、困りものです。

 私は、その粗い部分は炭素量が低いのかと思っていました。ところが、実際に測定してみると、炭素量は非常に高いのです。どうしてこんなことになるのか、説明しましょう。

 玉鋼をつくる工程は、3日かかります。本来なら、最初は銑鉄をつくります。銑鉄は鋳物に使われる技法ですが、炭素量が高いため、それを半分にするような処理をして、ケラ(鋼のもとになる塊のこと)にしていきます(銑押し法)。しかし、今では銑鉄をつくらずに最初からケラにする技法が用いられています(ケラ押し法)。

 ケラ押しでつくると、最初にケラになった部分の粒子が3日の間に粗くなってきます。70年ほど前の靖国たたらでは、銑鉄を半分つくって、そこからケラをつくるようにしていました。それでは銑鉄をつくる分だけ効率が悪くなるというので、ケラ押し法が採られているのですが、底の方の鋼は使い物になりません。

 私としては銑押しの方法に戻してくれと言ってきたのですが、実現できないのです。それは、たたらの修繕が済んでいないからです。日刀保たたらは年3回の操業ですが、修繕ができていないので、底の方に水分がたまり、温度が上がりにくくなっていました。炭素量にすると0.1パーセントの差なのですが、それで仕上がりが大きく変わってしまいます。

 そこで、著書にも書きましたが、修繕していただけることになりました。鍛冶屋一人のレベルでは、到底間に合いません。


●若い刀鍛冶に仕事を与える熊本城修理


松田 今お願いしているのは、熊本城を修理するときには和釘を使ってほしいということです。和釘を使うためには鍛錬しなければいけません。それは刀鍛冶にしかできないことです。

 今の若い刀鍛冶はほとんど仕事がありません。いくら刀をつくっても売れないので、ほとんどの人がコンビニなどで...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か
ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景
池上英洋
『古今和歌集』仮名序を読む(1)日本文化の原点となった「仮名序」
『古今和歌集』仮名序とは…日本文化の原点にして精華
渡部泰明
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純
和歌のレトリック~技法と鑑賞(1)枕詞:その1
ぬばたまの、あしひきの……不思議な「枕詞」の意味は?
渡部泰明
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
音楽はなぜ時代を映し出すのか?…音楽と人の歴史の関係
片山杜秀

人気の講義ランキングTOP10
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(2)秀吉の実像と「太閤神話」
秀吉・秀長の出自は本当は…実像は従来のイメージと大違い
黒田基樹
平和の追求~哲学者たちの構想(6)EU批判とアメリカの現状
理想を具現化した国連やEUへの批判がなぜ高まっているのか
川出良枝
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――自分にあった「理想的睡眠」の見つけ方
西野精治
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境に対峙する哲学カフェ…西洋哲学×東洋哲学で問う矛盾
津崎良典
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
組織心理学とは何か~『武器としての組織心理学』と概論
なぜ組織に「心理学」が必要か?多様化と個の時代の処方箋
山浦一保