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同業者にも伝承が難しい刀の「傷」の散らし方

刀匠・松田次泰に聞く―日本刀のつくり方(6)下鍛え

松田次泰
刀匠
概要・テキスト
『日本刀・松田次泰の世界―和鉄が生んだ文化―【第2版】』
(作・画 かつきせつこ 企画 松田次泰/かつきせつこ 発行 株式会社 雄山閣)
刀匠・松田次泰氏の刀は、不可能と考えられてきた鎌倉刀の再現に成功したといわれる。その大きなポイントは、「地肌」にある。江戸時代以来失われたと思われてきた地肌が復活したのは、松田氏の丹念で科学的なアプローチによるものだ。「古刀づくり」の謎が今、明かされる。(全7話中第6話)
時間:15:37
収録日:2017/03/22
追加日:2018/01/08
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≪全文≫

●理にかなった「十文字鍛え」の方法


質問 縦に割ったのはなぜですか?

松田 昔は、弟子が向槌を叩きました。私などは、コバを出されて叩くと、細いので狙うのが大変で、外したりしたものです。本当はそのまま叩いていく方が、叩く側も楽だし、仕事も速くなります。妙に仕事をきれいにしようという思いで横に伸ばしていくと、時間も長くかかるし、脱炭も進みます。

 だから、叩きっぱなしにする必要があります。ただ、そうすると横に広がってしまいます。だから縦に切らなければなりません。それで、縦に切ると、今度は細長くなるから横に切る。それは昔から「十文字鍛え」と呼ばれてきたやり方です。

 向槌を叩くのは、そういった意味があったと私は確信しています。コバを叩くと、鍛錬の時間が長くなりすぎてしまうのです。


●刀鍛冶に文句を付けるのは横座に座ったことのない人


質問 『日本刀・松田次泰の世界─和鉄が生んだ文化─』(雄山閣)の中にある、下鍛えの部分で「泥水をかける」とはどういう意図なのか、教えていただけますか。

松田 風が直接鉄に当たらないよう、ガードするためです。だから、泥が溶けたタイミングで出していますが、沸かしが足りないと、泥がくっついたままということも時々あります。

 一般には、火から出したときに泥がたらたらと垂れるような状態がいい鍛錬だといわれていますが、脱炭しやすくなるので、ここではそれほどの温度にはしません。

 「風は当たっていないはずなのに、どうして付くのだ。その酸素はどこから来ているんだ」と東京工業大学の先生に言われたことがあるのですが、その時は「さすがだな」と思いました。

 文句を言う人たちは、ここへ座ってみたことのない人、つまり映像などでしか刀鍛冶を知らない人です。そういう人が刀鍛冶にどうこう言うのはどうなのか、それはおかしいのではないかと、私は弟子の頃から思っていました。ただ、昔の刀の再現は誰もできていないので、こちらが正しいとも言い切れないのです。


●鍛えの中間プロセスに「地肌」づくりのポイントがある


質問 上鍛えと下鍛えで、大きな違いはありますか。

松田 非常に大きな違いがあります。下鍛えだけでは量が少ないから、上鍛えを1枚加えるということがありますが、私の中ではもっとずっと大きな違いです。

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