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印象派とは~画家たちの関係性から技法まで
印象派の画家たちによる最先端の表現方法「筆触分割」とは
印象派とは~画家たちの関係性から技法まで(7)マネのトリックと印象派の表現方法
芸術と文化
安井裕雄(三菱一号館美術館 上席学芸員)
印象派の画家たちに大きな影響を与えたマネは、最後の印象派展を見届けることなくこの世を去った。マネの最後のサロン出品作となった《フォリー・ベルジェールのバー》には、よく観察するとさまざまなトリックが隠されており、そこには時代背景やマネの社会的ステータスが反映されていることが分かる。アカデミスムを重んじるサロンと世俗を表現した印象派の違い、そして当時の最先端の表現方法などとあわせて解説する。(全8話中第7話)
時間:8分21秒
収録日:2023年12月28日
追加日:2025年2月8日
収録日:2023年12月28日
追加日:2025年2月8日
≪全文≫
●マネの最後のサロン出品作《フォリー・ベルジェールのバー》の不思議
印象派の画家たちがひとしなみに仰ぎ見ていたエドゥアール・マネは、早くに亡くなってしまいます。マネが亡くなったときに、8回目の最後の印象派展は、まだ開催されていませんでした。印象派展に参加することなく、そして第8回目の印象派展を見届けることなく亡くなってしまったマネなのですけれど、印象派、そして第8回目の印象派展に出品していたポスト印象派、(つまり)印象派のあとの世代に大きな影響を与えることになります。
最後のサロン出品作がこの《フォリー・ベルジェールのバー》という作品です。ロンドンのコートールド研究所にあります。この作品は本当に不思議な空間です。特にこの鏡、そしてその前に立っている金髪のモデルさんの位置関係です。
このモデルさんはウエイターの役割を与えられているのですけれど、美術家の森村泰昌さんがこのモデルとなった女性に扮してバーのカウンターに立ってみたところ、手がどうしてもこの高さのカウンターに届かないのです。へそのレベル、あるいはウエストレベルよりもかなり下のところにカウンターはあります。なので、マネは明らかにこの手を長く伸ばすことでその操作をして、これを自然に見せているに違いないとおっしゃっています。
画中の人間の位置関係、人のプロポーションといったものの操作は、それだけにとどまりません。挙げていけばキリがないのですけれど、このマジックのようなトリッキーな作品は、本来でしたら、この金髪のウエイトレスさんの前に立っているのはシルクハットをかぶった紳士のはずです。これは画面の右側に反射像として描かれているのですけれど、もう少し画面の左側にいないとこのような位置関係には入ってこないはずなのです。ところが、このウエイトレスさんが正対している位置にあたかもいるかのように描かれています。つまり、われわれはこのシルクハットの男性になって、この絵の前に立つことが余儀なくされるのです。
現在においては、フェミニズムの時代を通り越して、これだけジェンダーについて意識しなければいけない時代ですので、白人の男性、しかもブルジョワジー階級の人物が鑑賞することを前提になっている作品はそれだけで非難の的になりそうですけれど、当時の時代背景、風俗、そしてフ...
●マネの最後のサロン出品作《フォリー・ベルジェールのバー》の不思議
印象派の画家たちがひとしなみに仰ぎ見ていたエドゥアール・マネは、早くに亡くなってしまいます。マネが亡くなったときに、8回目の最後の印象派展は、まだ開催されていませんでした。印象派展に参加することなく、そして第8回目の印象派展を見届けることなく亡くなってしまったマネなのですけれど、印象派、そして第8回目の印象派展に出品していたポスト印象派、(つまり)印象派のあとの世代に大きな影響を与えることになります。
最後のサロン出品作がこの《フォリー・ベルジェールのバー》という作品です。ロンドンのコートールド研究所にあります。この作品は本当に不思議な空間です。特にこの鏡、そしてその前に立っている金髪のモデルさんの位置関係です。
このモデルさんはウエイターの役割を与えられているのですけれど、美術家の森村泰昌さんがこのモデルとなった女性に扮してバーのカウンターに立ってみたところ、手がどうしてもこの高さのカウンターに届かないのです。へそのレベル、あるいはウエストレベルよりもかなり下のところにカウンターはあります。なので、マネは明らかにこの手を長く伸ばすことでその操作をして、これを自然に見せているに違いないとおっしゃっています。
画中の人間の位置関係、人のプロポーションといったものの操作は、それだけにとどまりません。挙げていけばキリがないのですけれど、このマジックのようなトリッキーな作品は、本来でしたら、この金髪のウエイトレスさんの前に立っているのはシルクハットをかぶった紳士のはずです。これは画面の右側に反射像として描かれているのですけれど、もう少し画面の左側にいないとこのような位置関係には入ってこないはずなのです。ところが、このウエイトレスさんが正対している位置にあたかもいるかのように描かれています。つまり、われわれはこのシルクハットの男性になって、この絵の前に立つことが余儀なくされるのです。
現在においては、フェミニズムの時代を通り越して、これだけジェンダーについて意識しなければいけない時代ですので、白人の男性、しかもブルジョワジー階級の人物が鑑賞することを前提になっている作品はそれだけで非難の的になりそうですけれど、当時の時代背景、風俗、そしてフ...
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