印象派とは~画家たちの関係性から技法まで
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
次の動画も登録不要で無料視聴できます!
鍵は「真似る」…印象派の歴史をたどる上での重要な観点
第2話へ進む
風景画家だけの集まり…?誤解された印象派の本当の姿
印象派とは~画家たちの関係性から技法まで(1)印象派への誤解
安井裕雄(三菱一号館美術館 上席学芸員)
印象派はしばしば誤解されている。風景画だけを描いていたのではないか、画家たちがとても貧しかったのではないか。そういった誤解が印象派にはまとわりつくのだが、実際には、風俗画も印象派の主題として欠かせない要素だったし、景気の波に乗って展覧会を開催していたこともあった。当時の動向や画家たちの関係性を、印象派の画家たちが影響を与えたドラクロワとコンスタブルなどをもとに具体的に掘り下げ、印象派の本当の姿を明らかにする。(全8話中第1話)
時間:10分53秒
収録日:2023年12月28日
追加日:2024年12月28日
カテゴリー:
≪全文≫

●印象派には風景画家と風俗画家の2つのグループが寄り合っていた


 印象派というのはしばしば誤解されているのですけれど、風景画家だけの集まりではありません。印象派のグループはその初期から自然を記録する画家たちであり、(同時に)文化を観察する画家たちと分類されておりました。これはデュランティという当時の美術評論家の分類でございます。ですけれど、現在においても有効な分類になっているかと思います。

 印象派はその形成期、1874年に印象派展を開催しておりますけれど、これは偶然にもちょうど景気が良かった時期です。1870年に普仏戦争がありました。バジールも戦死しましたけれど、その直後は、しばらくのあいだ景気が悪かった。フランクフルト講和条約によりまして、フランスはプロイセンに対して巨額の賠償金を支払わなければいけなくなります。けれど、わずか2年あまりで完済をしております。

 この1870年の普仏戦争のあいだに、クロード・モネとカミーユ・ピサロはイギリスに逃れました。このとき、画商のデュラン=リュエルと知り合います。デュラン=リュエルは、のちに印象派の画家たちの作品を扱うようになる画商です。彼のおかげで、普仏戦争後、印象派の画家たちは作品を買ってもらえるようになるのです。

 ところが間もなく、1873年のことなのですけれど、世界的に不況が始まります。もっとも、フランスはよく知られるように農業国で、1873年から1874年にかけては小麦が豊作でした。そのおかげもありまして、(美術市場には)不況の影響がほとんどありませんでした。

 現実的には1875年以降、やはり不景気の波を被るようになります。ちょうど第1回印象派展が開かれた1874年というのは、運良く不景気の間の好景気の時期だったのです。しかもデュラン=リュエルが作品を買ってくれていたので、印象派の画家たちは、サロンとは別に、自前の展覧会を開くことができました。展覧会を開くには当然お金が必要です。そのお金を工面するだけの余裕があったということになります。

 印象派は、貧乏な画家たち、とよく誤解されております。これはテオドール・デュレという批評家がのちに、1880年代から1890年代にかけて印象派の評伝を書くときに、ほとんど紋切り型といっていいのでしょうが、繰り返し、...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
『源氏物語』を味わう(1)『源氏物語』を読むための基礎知識
源氏物語の基礎知識…人物関係図でみる物語の流れと読み方
林望
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か
ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景
池上英洋
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
音楽はなぜ時代を映し出すのか?…音楽と人の歴史の関係
片山杜秀
岡倉天心『茶の本』と日本文化(1)岡倉天心の生涯
岡倉天心の『茶の本』…世界に向けた日本伝統文化の発信
大久保喬樹
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆

人気の講義ランキングTOP10
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制
『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割
今井むつみ
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
島田晴雄
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(5)AIに記号接地は可能か
人間とAIの本質的な違いは?記号接地から迫る理解の本質
今井むつみ
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
徳と仏教の人生論(6)物事の本質を見極めるために
「境地は裏切らない」とは?禅の体験から見えてきたもの
田口佳史
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏
大谷翔平の育て方・育ち方(1)花巻東高校までの歩み
大谷翔平の育ち方…「自分を高めてゆく考え方」の秘密とは
桑原晃弥
編集部ラジオ2025(26)ソニー流!多角化経営と人材論
ソニー流「人材の活かし方」「多角化経営の秘密」を学ぶ
テンミニッツ・アカデミー編集部
産業イニシアティブでつくるプラチナ社会(1)「プラチナ社会」構想と2050年問題
5つの産業で「資源自給・人財成長・住民出資」国家を実現
小宮山宏