ルネサンス美術の見方
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カンヴァスと油彩画の組み合わせを定着させたティツィアーノ
ルネサンス美術の見方(8)ヴェネツィア派の巨匠ティツィアーノ
池上英洋(東京造形大学教授)
フィレンツェと北方に次いで、ヴェネツィアはルネサンス第3極として位置付けられる。特に最大の巨匠であるティツィアーノは、共和国の筆頭画家として活躍した。海運国家の特性が対象や技法に現れており、特にカンヴァスと油彩画の組み合わせは、今日の美術の出発点となっている。(全8話中第8話)
時間:11分05秒
収録日:2019年9月6日
追加日:2019年12月4日
カテゴリー:
≪全文≫

●十字軍が海路を使うようになり、海運国家ヴェネツィアの地位が向上


 さて、ルネサンス美術シリーズの最後を飾るのは、ティツィアーノという画家です。彼は生まれた時期がシリーズの中で紹介した画家の中では一番遅いのですが、ヴェネツィア最大の巨匠です。

 ヴェネツィアは、前にご紹介しました北方やフィレンツェに次ぐ第3極として位置しています。そして、彼はヴェネツィア派最大の巨匠であるだけでなく、カンヴァス画を普及させた人としても重要です。さらに、官能美を肯定するというムーブメントを生み出した人としても重要です。では、見てまいりましょう。

 ティツィアーノは、1488年あるいは90年に生まれた人で軍人の息子でした。ヴェネツィアは当時、経済大国として権勢を誇っていました。これは、十字軍のおかげです。十字軍はエルサレムを取った後、そこに何度も何度も行きます。その時、ヨーロッパの真ん中あたりから来た騎士たちは最初、陸路を通っていたのですが、そこは距離が長く、しかもイスラム圏を通るのは危険であったため、海路を使うようになりました。


 そうなると、ヴェネツィアが有利になります。しかもヴェネツィアは、面白いことをやりました。エルサレムの人々に船や兵隊、食料を提供していたのです。もちろん、契約を結んでお金を取っていたのですが、これを少し安く抑えました。その代わりに、新しい領土を取ったらそこを一部割譲してくれという契約を結びました。これによって、十字軍の前半期には、ヴェネツィア共和国はどんどん大きくなっていきました。

 最大で、210万人の国になりました。これは当時、ヨーロッパの中でも大国のほうでした。経済力としても、フィレンツェに並ぶ経済の極になるので、ちょうど当時のフィレンツェのフィオリーニ(フローリン)とヴェネツィアのドゥカートの2つが、今日のドルと円、あるいはドルとユーロの関係になるぐらい、力を誇りました。


●ルネサンスの終わりはイタリアの衰退期と重なる


 しかし、ティツィアーノが生まれたすぐ後の1492年には、ご存じのようにコロンブスがアメリカ大陸に到達します。その後、急速にヨーロッパの経済的な活動の重心が、大西洋に移動してきたのです。そ...

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