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経済の持つ意味にいち早く気づいていたヴェネツィアの知恵

独裁の世界史~ヴェネツィア編(4)日本がヴェネツィアに学ぶべきこと

本村凌二
東京大学名誉教授/文学博士
情報・テキスト
小国でありながら、通商国家として、また海運国家として覇権を示したヴェネツィアには、今の日本が学ぶべき点が多数ある。いたずらに強国と争わず、自らの特性を知った国のシステムづくりに邁進することも、その一つだ。(全4話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:08:16
収録日:2019/12/19
追加日:2020/06/20
カテゴリー:
≪全文≫

●政治家としての見識を維持していくにはどうしたらいいか


―― 前回のお話の中に、2世、3世議員の話がありました。また、ヴェネツィアがくじ引きなどにこだわったのは、変な野心を持った人物が政治の枢要な地位に就くことを除外する、排除するというところだったことも、重ねて教えていただきました。そうなると、ある程度は世襲制があったほうが、変な野心を持って国を引っかき回そうとする人たちの出る危険性を減らせるというところであるわけですね。

本村 日本の今の政治というのは、全て選挙で選ばれるためにあって、選挙が終われば何も関係ないというような変な方向に行っているのではないかと思うのです。そういう人たちを見ていると、そのように私には見えてしまいます。

―― そうですね。選挙に勝てばいいみたいなところはあるかもしれませんね。

本村 世襲であれば、そういう弊害には陥らないのではないか。もちろん他の要因が出てくるかもしれません。少なくとも国政に行うのにふさわしいだけの資産や見識を維持していくにはどうしたらいいか、ということは課題として出てくると思います。

―― そうですね。今の日本では、もともと貴族院として「良識の府」といわれてきた参議院が、普通の衆議院と変わらない位置付けになっているところもあります。今後、良識なり見識なり、野心的なものをいかに防ぐかということを考えるためには、制度設計を少しいろいろ考えないといけないところかもしれません。


●平等偏重の社会において大事なこと


本村 あまりにも「平等」を偏重して、いろいろな意味で情報が漏れないように、多様なシステムを作っているのだろうと思います。そこはともかくとして、変な平等主義というのはどうかと思います。それぞれに優れた人間がいることを考えに入れていない。実際には、国語が得意で数学ができない人もいれば、数学が得意で英語ができない人もいる。英語と数学と国語が全部できても体育ができない人や、英語と数学と国語ができて、体育もできる人は人が悪いとか。というように、それぞれに特徴があるわけで、われわれがそうした人の資質を一片だけで捉えない、つまり点数だけで考えないことが大事でしょう。

 私は東京大学で長く教え、いろいろな東大生を見てきました。たしかに点数的な優秀さを持った学生がたくさん集まっている。しかし、例えばあるものを詳しくやらせるときにはどうなるか、持続してやらせるとどうなるか、他の人たちを動員してやるとどうなるか。それらの能力は、それぞれ全く別の能力です。だから、その人が持っている資質をそれなりに認めてあげることも大事だと思います。それも、いろいろな意味での教育の中で身につけなければいけないところなのでしょうが、たしかに難しいですね。

―― そうですね。そうなると家柄などの話も出てくるので、世襲制的なものも意味があるかもしれないですね。


●経済の力にいち早く気がついていたヴェネツィア


―― もう一つ、今回のシリーズのお話を聴いていて興味深かったことがあります。野心のある人というのはだいたい能力もある人が多いと思いますが、ヴェネツィアでは、そのような人を排除する仕組みをつくったにもかかわらず、通商国家としての道を間違えなかった点です。彼らは単に平々凡々と同じことを繰り返すのではなく、かなりいろいろな状況に機敏に対応する必要もあったと思います。

 ヴェネツィアはその両立をでき、通商国家あるいは海運国家としても優れていた点が面白いと感じたのですが、共和政とその点の両立に関しては、先生はどのようにお考えでいらっしゃいますか。

本村 彼らはやはり自分たちの特徴をよく弁えていました。

―― 国としての特徴ですね。

本村 小さな国だけれども、どこに経済力を必要とするかといった目配りです。前近代においては、経済について目が行き届かないのが普通です。しかし、早い段階で商業力を確立し、複式簿記をつくったり、銀行のシステムをつくったりした彼らは、経済の持つ意味にいち早く気がついていました。

 小さな規模であったからこそ、広い世界の中で自分たちを通用させるにはどうしたらいいかに敏感になる。だから、経済の基本的な力にいち早く気がついていたのではないかと思うのです。

―― 自分たちの特性を分かった上で、運営をし続けたということですね。

本村 そういうことがあるのではないかと思います。最初はラグーンに逃れていって、折る意味ではまったく虐げられた、まとまりのない状態だった。でも、とにかく誰かには支配されたくないという意思のもとで磨かれてきた一つの知恵だったのではないかと思います。


●小国ながら覇権を示したヴェネツィアにもっと学んだほうがいい


―― そうですね。確かに国の規模は参考になります。例えば今...
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