●モネ《印象、日の出》の出展作をめぐる議論
第1回印象派展では《モデルヌ・オランピア》、あるいは《首吊りの家》といったセザンヌの作品がたいへん話題になっていました。目立った評論はセザンヌに多くを割かれていることが多いのですけれど、もう1人の画家、モネもその双璧と呼べる位置にあったと思います。
特にモネは、この《印象、日の出》という作品によって印象派の名前とともに美術史に強く記憶されることとなります。
この作品は、印象派の名前が広まるに当たって重要な役割を果たしていたキーとなる作品なのですけれど、高名なる美術評論家ジョン・リウォルドが『印象派の歴史』という大部の著作の中の4回目の改訂に、印象派展に出品された《印象、日の出》はこの作品ではなくて、別の作品であると述べるようになりました。
最終的にその説は長い間議論され、覆されることになります。その決定的なリサーチがなされたのは、実は2014年のことなのです。長い間、間違いなく、今ご覧いただいているマルモッタン美術館の《印象、日の出》が第1回印象派展の出品作であると同定されていたのですけれど、リウォルドの説に対して決定的な反論はできていなかったのです。
ところが、第1回印象派展から140年の記念の年に所蔵館であるマルモッタン美術館の館内の人間、研究者だけではなくて、外部の修復家、美術史家、天文学者、物理学者とチームを組んで、当時の記録から、完全に洗い直して調査し直しました。その結果、この作品が描かれた場所であるルアーヴルを、モネは1873年には訪れているのだけれど、画面の中に記載のある1872年には訪れていないといわれており、これが定説になっていたのですが、制作年は1872年ということで断定されました。
●水門から見える背景と当時の売値相場
制作年の問題が解消されたところで、この作品についてもう1度分析し直してみたところ、絵の中に水門が描かれているのがお分かりいただけると思うのです。グレーの帯が途中で少し切れて、中景ぐらいでもう1度グレーが続いています。
これは水門なのですけれど、ここができて、そして開かれていた日時は、当時の港の造成の記録、工...