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解剖学でタブーに挑戦したレオナルド・ダ・ヴィンチ

ルネサンス美術の見方(5)レオナルド・ダ・ヴィンチ~後編~

池上英洋
東京造形大学教授
情報・テキスト
モナ・リザ
レオナルド・ダ・ヴィンチは、さまざまな実験を行ったことでも知られる。それにより、事実を突き止めるとともに、新たな発明につなげていった。また、解剖学にも関心を抱き、立体的な身体の理解に努めたり、教会のタブーに抵触しかねない脳や内臓の解剖にも着手し、同時代の科学的知識を深めていった。(全8話中第5話)
時間:11:32
収録日:2019/09/06
追加日:2019/11/13
カテゴリー:
≪全文≫

●レオナルドは実験を続けることで、様々な発見・発明をもたらした


 それではレオナルドの後半にまいりましょう。

 彼は、さまざまな実験をしたことで知られています。その中には、従来言われていたことを確かめるようなものもありました。例えば、今ご覧いただいているのは、いわゆる「永久機関」というものです。永久機関とはつまり、1度エネルギーを与えると、失われることなく永久に回り続けるというものです。

 当時は錬金術師たちの多くがこういうものが成り立つと唱えていたので、レオナルドも、何度もこれに挑戦しました。いろんなタイプのものでこういうことができないかと実験を試みたのですが、結局成功しませんでした。レオナルドも手稿などに、錬金術師たちが言っていることは間違いであると書いています。


●摩擦の実験から、ボールベアリングを発明した


 面白いのは、彼がそこで実験を終わらせないということです。先述の永久機関のことですが、理論的には続くはずなのになぜ止まってしまうのか。これは摩擦によるエネルギーの喪失ということになるのですが、レオナルドはそこで摩擦の実験を始めました。ここが面白いところです。

 いろいろな重さ、形状、材質のものについて、どのように摩擦が働いていくかということをさまざまな場合に分けて、実験していきました。さらに、摩擦によってエネルギーが喪失していくということを理解すると、今度はそれ(エネルギーの喪失)を極小化するためには接するところの面積を小さくすれば良いということに気が付きます。さらに、そのためには、球体にして点のようにすれば良いということを突き止めたのです。ということで、彼はボールベアリングを発明しました。

 今ご覧いただいているのは、スラスト・ベアリングというものです。確かにこれであれば、もちろんいつかは止まりますが、失われるエネルギー量は非常に極小化できます。こうした発明につなげていくところが、レオナルドの優れた点です。


●発明を再現可能なように、解説図付きで世の中に広めた


 彼は、こういった自分の発明を、自分独りのものとはしようとしなかったのですが、これも私が彼を好きな理由の1つです。例えばスライドにあるこの発明は、レバーを前後にカタカタと前後運動させると、ギアが回転して重りが上がったり下がったりするという方向転換器です。

 その右隣に彼が書いているのは、ノンパースです。要するに平行遠近(パース)にせず、プラモデルの説明図のような感じで、部品を離して見せてくれています。しかも細かなところは、拡大図まで付けてくれています。

 結局、彼はこの絵によって、自分がした発明を他の人も同じようにできるように示しているのです。彼は自分の発明をこのように世に広めようとしていました。こういう伝え方も、彼が最初に始めたことです。


●解剖学への取り組みとタブーへの挑戦


 こうした彼の優れた部分は、解剖学にも現れています。例えば、上のスライドは彼の解剖実験の1つです。当時、解剖は大体、死刑囚の人の遺体を譲り受けて行いました。彼は人間の上腕部の筋肉の構造を描いているのですが、例えば特定の筋肉が後ろのどの部分につながっているのかというのは、1面からでは分かりません。そのため、彼は少しずつ視点をずらして描いていきました。当時はもちろん立体映像などなかったので、このように少しずつ視点を回して、筋肉のつながりを立体的に把握できるようにしました。

 遺体は、その間に腐り始めています。ですから、1体を描くだけでも非常に大変です。絵画をなさっている方はお分かりだと思いますが、非常に大変なのです。しかし、これを短時間でしつこく行うというところに、レオナルドの優れた考え方があるのです。

 最初は飛翔実験のために始めた解剖でしたが、これを機に彼は人体の神秘に切り込んでいきました。

 そして、当時はタブーだった脳の解剖を始めます。当時はまだ、頭の中に脳漿(のうしょう)が存在することは知られておらず、神が与えたエネルギーによって動かされているとなんとなく思われていました。そうした中、彼は脳について正確に報告する最初の人になります。

 しかし、このことは当時タブーであったため、彼は教会に訴えられ、一時的に教会から、解剖をやめるようにという命令が下ったりもしました。しかし、彼はかなり抵抗して、命令を押しのけながら進...
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