作風と評論からみた印象派の画期性と発展
この講義シリーズの第1話
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
モネやドガに影響を与えたジャポニスムの前衛性
作風と評論からみた印象派の画期性と発展(4)脱固有色とジャポニスム
安井裕雄(三菱一号館美術館 上席学芸員)
印象派の作品が他の作品と一線を画した要因には、対象の持つ色を無視した「脱固有色」と、それをアイロニカルなスタイルで指摘する評論家の存在があった。今回は、印象派の発展において重要な役割を果たした評論家のスタイルと、モネやドガなどのジャポニスムの前衛性について解説する。(全4話中第4話)
時間:13分48秒
収録日:2023年12月28日
追加日:2025年7月31日
カテゴリー:
≪全文≫

●印象派の「脱固有色」の画期性


 それ以外にももう1つ、重要なファクターが、「脱固有色」です。

 固有色から脱出するということはどういうことか。水は水色、空は青、葉は緑、肌は肌色、お絵かきだとか、小学校の授業などで覚える描き方そのままかもしれませんけれど、水だったら水、空だったら空、木の葉だったら木の葉、人間の肌は肌色、そういった固有の色(ローカルカラー)があるというような考え方です。これは、アカデミーの画家たちが描いた作品を見るとその通りに表現されています。

 それに対して印象派の画家たちは(例えば人物では)その場の肌の肌色ではなく、固有色ではない色彩を画面の中にちりばめていきました。例えば、このルノワールの《陽光の中の裸婦》という作品です。

 これはたいへん辛辣な批評を書くことで知られていた、アルベール・ヴォルフという美術評論家がいます。ヴォルフはマネに対しても辛く書きましたし、印象派にも厳しい態度を取っていたものですから、印象派の不倶戴天の敵と目され、後の美術史家たちの評価はたいへん低い批評家です。つまり、まったく新しいものの評価ができないダメな批評家だと書いているのですけれど、意外なことにマネを正当に評価し、後の時代が続くであろうというようなことを書いているのも、このヴォルフがごく早い例なのです。

 もっとも、一方的に印象派を持ち上げるだけでもなく、貶めるだけでもなく、ちゃんと良い点悪い点も、そして、ここが重要なポイントなのですけれど、印象派、あるいはマネの時代における役割をしっかりと見定めながら、その上で美術評論家、アートディーラー、画家たち自身がいかに振る舞ったかということを見抜いていたのが、ヴォルフなのです。


●印象派の地位と評論家の存在


 印象派の評価は、最初から確立していたわけではありません。逆にいうと、印象派が評価され、かつ売り物になるというのは、誰かがその評価を固めて、誰かが売って、誰かが買わないと成立しません。

 かつては王侯貴族、あるいは教皇、あるいは皇帝が自分の思うような作品を買い上げていればよかったので、そのときに注文されたのは歴史画でした。アカ...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
音楽はなぜ時代を映し出すのか?…音楽と人の歴史の関係
片山杜秀
おみくじと和歌の歴史(1)おみくじは詩歌を読む
おみくじは「吉凶」だけでなく「和歌や漢詩」を読むのが本当
平野多恵
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫

人気の講義ランキングTOP10
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(2)秀吉の実像と「太閤神話」
秀吉・秀長の出自は本当は…実像は従来のイメージと大違い
黒田基樹
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境にどう対峙するか…西洋哲学×東洋哲学で問う知的ライブ
津崎良典
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――自分にあった「理想的睡眠」の見つけ方
西野精治
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
平和の追求~哲学者たちの構想(6)EU批判とアメリカの現状
理想を具現化した国連やEUへの批判がなぜ高まっているのか
川出良枝
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
編集部ラジオ2025(32)哲学者たちが考えた平和追求
反EU、反国連の時代に再考!「哲学者たちの平和追求」
テンミニッツ・アカデミー編集部
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
組織心理学とは何か~『武器としての組織心理学』と概論
なぜ組織に「心理学」が必要か?多様化と個の時代の処方箋
山浦一保