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研ぎ師はお礼奉公の1年で「繕い」の秘伝を覚える

刀匠・松田次泰に聞く―日本刀のつくり方(7)甲伏せ

松田次泰
刀匠
概要・テキスト
言葉にしにくい職人の知恵を「鉄と火の科学」と照合して、現代の日本刀づくりに生かし続ける刀匠・松田次泰氏。しかし、メディアは表面的なことで判断することが多い。工程は皮鉄で心鉄をくるんでいく「甲伏せ」に入っていくが、鍛錬で飛び散る火花はテレビ画面には必須だし、職人が複数でハンマーを叩き合う「向槌」の場面も絵になるからだ。(全7話中第7話)
時間:12:51
収録日:2017/03/22
追加日:2018/01/09
カテゴリー:
≪全文≫

●皮鉄の裏表と「柾目」にならない延ばし方


松田 皮鉄はどちらを表に出すか、印を付けておかないと、甲伏せになったときに中に入ってしまって厄介です。鍛錬している最中に、「傷っぽい」方を表にしようとあらかじめ決めておきます。傷っぽかったり、ふくれそうだと思う側を表に出しておくと、後で切り取ってしまうことができます。

 表側に出た不都合は操作できますが、逆に中に入ってしまうと、心鉄とくっ付いて、どうしようもなくなります。刀になったときに心鉄と皮鉄が剥がれて、おたふくのようにボコッと出るのは、そうした場合です。小さなフクレなら途中で取れるので、なるべく傷っぽい箇所が外側に出るように、鍛えの間も甲伏せの準備でも気配りをします。

 「向き」が非常に大事なのです。今は正方形なのであまり目に付きませんが、少し広がっていくと、すぐに分かります。

 鍛えのときに心掛けて操作するのは、「柾(マサ)」にならない延ばし方です。木の柾目は重宝がられますが、刀の場合は違います。「柾鍛え」というのもありますが、ごく限られています。ほとんどは「板目」や「杢目」です。

 鎌倉期までの古刀には流れたところがありません。江戸時代もなるべく延びないように操作していますが、鎬(シノギ)の地だけがどうしても柾になっています。そうすると、いくら内容が古く見えても「これは新刀だな」と露見します。そこが分からないように、新刀では「樋(ヒ)」という溝を彫っています。


●心鉄の役割と甲伏せのさまざまな技法


松田 「甲伏せ」についてですが、一度皮鉄をまくってみて、懐具合がだいたい分かってから、心鉄の量に調整をかけます。心鉄は昨日のうちに鍛えてありますが、普通は約2本分用意します。心鉄が少ないと刀の目方が出なくて困りますので、少し多めに準備します。多い分にはいくらでも調節がききますが、足りないとどうにもなりません。

 心鉄の役割は、刀の重量を調節する意味とともに、「折れ」を防ぐこともよく指摘されています。おそらく新刀になってからはそれもあったかもしれません。

 ただ、鎌倉時代の古刀を裁断してみると、どこが心鉄でどこが皮鉄なのか、境目が分かりません。明らかに心鉄が入るのは、江戸時代に入ってからです。江戸期後半になると、「四方詰」や「本三枚」の技法が出てきます。それぞれ皮鉄と心鉄と棟鉄につくり分け、組み...
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