日本美術論~境界の不在、枠の存在
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
第1話へ
▶ この講義を再生
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
(会員の方に広告は表示されません)
尾形光琳「紅白梅図屏風」…具象と抽象の共存と官能的な美
日本美術論~境界の不在、枠の存在(3)光琳「紅白梅図」
佐藤康宏(東京大学名誉教授)
東京大学大学院人文社会系研究科教授の佐藤康宏氏が、日本の絵画に見られる具象と抽象の共存について解説する。「日月山水図」や尾形光琳の「紅白梅図」は、具象的な自然描写と同時に、抽象的な文様や金銀箔による装飾技法を用いることで、複雑な人間的感情を表し、官能に訴える怪しい魅力を放っている。(全6話中第3話)
時間:11分28秒
収録日:2017年8月2日
追加日:2018年2月10日
カテゴリー:
≪全文≫

●日本の絵画は具象的なものと抽象的なものを共存させる


 次に15世紀から18世紀の絵画の例を、数点挙げましょう。また、ヨーロッパと中国の絵画で、16世紀前半の作例を1点ずつ出しておきます。これらでは、一つの画面の主要部分は、一種類の具象的なモードで描かれています。どのように具象的であるかというレヴェルはお互い異なりますし、ほかの例を加えればさらにさまざまに異なりますが、ともかくその具象的なモードと決定的に異なる抽象的な造形を、画面空間に招き入れようとはしません。

 日本の絵画は、一つの画面空間の中に、具象的なものと抽象的なものを共存させます。15世紀後半か16世紀前半の作、大阪河内長野の金剛寺に伝わる「日月山水図」です。屏風は普通、1双、ワンペアという単位で作られます。いま向かって右側を右隻、左側を左隻と呼びます。右隻でも左隻でも、山の形は大胆に単純化されています。現実の山というよりも山はこんな形をしているのだという概念的、抽象的な山です。その山から独立して、松の木の1本1本が、わりあいに具象的に描かれます。

 右隻の部分です。波はというと、具象と抽象との混合物です。水面の揺れや波紋は概念的な線でかたどられていますが、意外に本当の波のような実感があります。波頭は銀泥、銀をすりつぶしてペースト状にした絵具を盛り上げて、一瞬の運動を永遠にとどめるかのような不定形の形に固定します。


●自然らしいものとそうでないものとが、隣り合って並べられる


 さらに、この屏風では、自然描写をする一方で、金属片を画面に貼り付けるという手法を用います。金や銀をたたいて紙のように薄く延ばし、箔(はく)と呼ばれる素材にします。空の部分に、金箔を貼りつけて太陽、銀箔を貼りつけて月を表すほか、金銀の切箔(きりはく)などを散らします。画の中の空間に自然のイリュージョンを作ろうとする絵画に対して、それと背反するような表現を用いるのです。

 特に切箔を散らすのは、料紙の装飾に用いられていた技法です。料紙、つまりそこに書を書き、あるいは絵を描くための紙の下地作りであって、装飾それ自体が空の表現に使われるのは不自然です。雲や霞を本当らしく表わそうとするなら、絵画の技法の方が適しています。そうではなくて、さまざまな形と大きさに切られて散らばる、金銀の箔片の輝きそのものの美しさに価値を置き、この風景の描...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
(会員の方に広告は表示されません)
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か
ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景
池上英洋
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆
深掘りシェイクスピア~謎の生涯と名作秘話(1)シェイクスピアの謎
シェイクスピアの謎…なぜ田舎者の青年が世界的劇作家に?
河合祥一郎
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
音楽はなぜ時代を映し出すのか?…音楽と人の歴史の関係
片山杜秀
文明語としての日本語の登場(1)古代日本語の復元
「和歌」と「宣命」でたどる奈良時代の日本語とその変遷
釘貫亨

人気の講義ランキングTOP10
編集部ラジオ2026(9)「トランプ大統領」の視点・論点
【テンミニッツで考える】「トランプ大統領」をどう見るか?
テンミニッツ・アカデミー編集部
日本人とメンタルヘルス…心のあり方(7)若者の引きこもりと日本の教育問題
日本の引きこもりの深い根源…「核家族」構造の問題とは?
與那覇潤
禅とは何か~禅と仏教の心(1)アメリカの禅と日本の禅
自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く
藤田一照
AI時代と人間の再定義(1)AIは思考するのか
AIでは「思考の三位一体」が成立しない…考えるとは?
中島隆博
「同盟の真髄」と日米関係の行方(7)トランプ氏の評価とその実像
こりごり?アイ・ラブ・トランプ?…トランプ陣営の実状は
杉山晋輔
プラトン『ポリテイア(国家)』を読む(14)ポリスと魂の堕落過程〈下〉僭主の末路
僭主制は欲望の奴隷…過度の自由が過度の隷属に転換する
納富信留
『貞観政要』を読む(2)著作に登場する人物たち
房玄齢・杜如晦・魏徴・王珪―太宗の四人の優れた側近
田口佳史
ソニー流「人的資本経営と新規事業」成功論(2)“変わり者”の生かし方と後継者選び
「人材の組み合わせ」こそ「尖った才能」を輝かせる必勝法
水野道訓
民主主義の本質(1)近代民主主義とキリスト教
なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景
橋爪大三郎
『太平記』に学ぶ激動期の生き方(1)なぜ今『太平記』を読むべきなのか
『太平記』は乱世における人間の処し方が学べる古典文学
兵藤裕己