日本美術論~境界の不在、枠の存在
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日本美術の魅力は矛盾が共存する柔軟性と構成意識の高さ
日本美術論~境界の不在、枠の存在(6)矛盾の共存
佐藤康宏(東京大学名誉教授)
東京大学大学院人文社会系研究科教授の佐藤康宏氏が、現代の漫画にまで通じる、画面の枠への意識を解説し、境界の不在と枠の存在という2つの日本美術の特徴について総括するシリーズ最終回。西欧と中国という偉大な教師の生徒であり続けた、日本美術の独自性に迫る。(全6話中第6話)
時間:6分15秒
収録日:2017年8月2日
追加日:2018年2月13日
カテゴリー:
≪全文≫

●「彦根屏風」は水墨の山水図屏風を画中画として描く


 画面の枠についても、ほかに面白い問題はいろいろ日本美術の中にあります。雪舟が16世紀初めに「天橋立図」を描いたとき、最初は左上のような画を構想し、次にこの画に左側と下側の部分を付け加えて、現在見る右下のような画に変更したことが指摘されています。この場合、枠が拡大しているわけです。

 枠の中にもう一つ別の枠がある画中画は、ヨーロッパや中国の絵画とも共通する現象として議論できるでしょう。「彦根屏風」は17世紀初めのダブル・スクリーン、屏風の中の屏風の例です。「彦根屏風」は、古風な様式で描かれた水墨の山水図屏風を画中画として描くことで、画の中に2つの領域を作り出します。画中画に表される理想の過去と、そこから遠く離れた屏風の外の現在とを対比するようにしつらえ、倦怠と寂しさに満ちた遊楽の情景を繰り広げます。

 19世紀初めには、浦上玉堂という優れた山水画家が、自分で小さな枠を画面の中にいくつか作って、その中に山水を描くことを試みました。この場合は、枠の形が山水の景観の描写に影響を与えるような相互作用がありそうです。


●現代の漫画においてもコマを超越する表現は頻出する


 画面の枠をはみ出すモチーフは、まだずっと生き続けます。葛飾北齋の読本挿絵でも、しばしば効果を発揮します。曲亭馬琴らの読本のために多数描いた挿絵は、北齋の仕事のうち最も重要なものの一つです。これは馬琴の『椿説弓張月(ちんせつゆみはりづき)』の1図です。ここでは讃岐に配流となっていた崇徳院が、自ら魔王に変じて空高く飛び上がっています。天狗の顔をした崇徳院の髪が画面の枠をはみ出している表現が、またしても日常を超越した変異であることを強調するのです。

 現代の漫画においてもコマを超越する表現は頻出し、いくつもの例を挙げることができるのですが、そういうのとは別の例をここには示しました。ここでは、この『オーパス』という漫画の主人公である娘が、原稿の中からこの漫画を描いている漫画家のいる現実に抜け出して来ているのです。ギリシャ神話のピュグマリオンといいますと、キプロス島の王です。彼は自分の造った彫刻の女性に恋をし、ついには女神の力で生命を与えられた像を妻とした、という男性ですが、『オーパス』はまさに現代のピュグマリオンといってもいい物語です。


●矛盾を共...


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