日本美術論~境界の不在、枠の存在
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
俵屋宗達「風神雷神図」に見る枠を超えた表現
日本美術論~境界の不在、枠の存在(5)宗達と歌麿の枠
芸術と文化
佐藤康宏(東京大学名誉教授)
東京大学大学院人文社会系研究科教授の佐藤康宏氏が、俵屋宗達「風神雷神図」と喜多川歌麿「北国五色墨 てっぽう」を例として、日本美術を特徴付ける枠への意識を解説する。宗達が南宋絵画の対角線構図を発展させるだけでなく、枠を超える表現にまで達したとすれば、歌麿は枠による切り取りを効果的に用いて、遊女の姿を描き出した。(全6話中第5話)
時間:8分44秒
収録日:2017年8月2日
追加日:2018年2月12日
カテゴリー:
≪全文≫

●俵屋宗達が対角線構図を採用した


 別の例を挙げましょう。京都の金地院に伝わる南宋時代の中国絵画、13世紀の「秋冬山水図」です。これも画面の枠を意識した構成を持っています。秋では右上から左下、冬では左上から右下という画面の対角線を想定し、下の方の三角形の領域に人物のいる近景を密集させ、上の方の三角形の領域にはあまり物が描かれない空間として遠景を描きます。明らかに、画面の枠が画面内部の空間構成に影響しています。日本絵画は、南宋絵画のこういう対角線構図を変容します。

 最初に紹介した『日本美術の見方』という本で、戸田禎佑氏(東洋美術史家で東京大学名誉教授)は、17世紀初めの俵屋宗達が南宋絵画の余白の意義を理解し、対角線構図を採用したと早くに説いていました。

 宗達は、画面がほぼ正方形になる二曲屏風、二枚折りの屏風という形式を得意にしました。2つの正方形が横に並ぶ二曲屏風1双という形式は、画面の枠を鑑賞者に強く意識させます。宗達が「風神雷神図」を描いたころまでには、中国絵画の対角線構図は日本絵画にも十分普及していましたから、画家も鑑賞者もそれに従って画面を作り、画面を見ることに慣れていたでしょう。


●枠を強く意識させることで、枠を超えるものの効果が生きる


 右隻は右上から左下、左隻は左上から右下、それぞれ対角線によって2つの三角形に分割できる画面です。近くにいるのは風神と雷神であり、遠くにあるのは金箔の貼られた空だと、鑑賞者は画面を読みます。近くのものは下の三角形にあり、遠くのものは上の三角形にあるのだと。一方、風神と雷神は上の隅に寄っているので、右隻は左上から右下、左隻は右上から左下、という反対側の対角線で画面を2つの三角形に分割することもできそうです。「風神雷神図」が私たちにもたらす不可思議な感覚は、ひとつにはこの構成に由来します。

 いずれの場合でも、本当は遠く、天空の高みにいるはずの風神と雷神が、鑑賞者に近い位置にいることになってしまうのです。私たちは、風神と雷神のすぐそばにいて、彼らとともに空中に浮遊しているように感じます。風神と雷神が乗る雲の下には、はるかな天空が広がります。それも私たちの近くから、想像上の私たちの足下から遠くへとずっと空が続いていることになります。さらに、風神の裳と雷神の太鼓が画面の上端からはみ出すことで、空はずっと画面の外に...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
深掘りシェイクスピア~謎の生涯と名作秘話(1)シェイクスピアの謎
シェイクスピアの謎…なぜ田舎者の青年が世界的劇作家に?
河合祥一郎
ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か
ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景
池上英洋
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆
岡倉天心『茶の本』と日本文化(1)岡倉天心の生涯
岡倉天心の『茶の本』…世界に向けた日本伝統文化の発信
大久保喬樹

人気の講義ランキングTOP10
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(6)習近平のレガシー
国力がピークアウトする中国…習近平のレガシーとは?
垂秀夫
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(5)AIに記号接地は可能か
人間とAIの本質的な違いは?記号接地から迫る理解の本質
今井むつみ
編集部ラジオ2025(24)「理解する」とはどういうこと?
学力喪失と「人間の理解」の謎…今井むつみ先生に聞く
テンミニッツ・アカデミー編集部
いま夏目漱石の前期三部作を読む(1)夏目漱石を読み直す意味
メンタルが苦しくなったら?…今、夏目漱石を読み直す意味
與那覇潤
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
大谷翔平の育て方・育ち方(1)花巻東高校までの歩み
大谷翔平の育ち方…「自分を高めてゆく考え方」の秘密とは
桑原晃弥
伊能忠敬に学ぶ「第二の人生」の生き方(1)少年時代
伊能忠敬に学ぶ、人生を高めて充実させる「工夫と覚悟」
童門冬二
クーデターの条件~台湾を事例に考える(4)クーデター後の民政移管とその方策
軍政から民政へ、なぜ李登輝はこの難業に成功したのか
上杉勇司
チームパフォーマンスを高める心理的安全性(1)心理的安全性が注目される理由
なぜ今「心理的安全性」なのか、注目を集める背景に迫る
青島未佳
大人の学び~発展しつづける人生のために(1)「Unlearn(アンラーン)」とは何か
見方を変える!生き方を変える!そのためのアンラーン
為末大