日本美術論~境界の不在、枠の存在
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
日本美術を特徴づける「枠」の存在とは?
日本美術論~境界の不在、枠の存在(4)枠の存在への意識
佐藤康宏(東京大学名誉教授)
東京大学大学院人文社会系研究科教授の佐藤康宏氏が、日本美術を特徴づける枠の存在について解説する。伝統的なヨーロッパや中国の絵画では、画面の枠の中に描くべき対象の全体が収められてきたのに対し、日本の絵画では、絵の中の空間が枠を超えて広がり、鑑賞者に枠の存在を意識させる技法が用いられてきた。(全6話中第4話)
時間:7分42秒
収録日:2017年8月2日
追加日:2018年2月11日
カテゴリー:
≪全文≫

●日本の絵画は、画面の枠の存在に対して意識的だった


 2つ目の話題に移ります。画面の枠の問題です。19世紀のヨーロッパ・アメリカの美術では、ジャポニスムが流行しました。日本美術の造形的な特徴を取り入れて生かそうとする試みです。そのとき、彼らが、描かれたモチーフの一部を画面の枠によって切り取る浮世絵の手法を採用したことは、よく知られています。

 ここでは歌川廣重とアンリ・トゥルーズ=ロートレックの例を挙げておきます。伝統的に、ヨーロッパや中国の絵画は、画面の枠の中に描くべき対象の全体が収まるようにしていました。日本の絵画は、時折、画面の枠というものの存在に対して意識的でした。そのことを数点の例で観察してみます。


●映画のカメラのように、絵巻の視点は自由に動く


 12世紀の絵巻「信貴山縁起(しぎさんえんぎ)」は、3巻から成り、命蓮(みょうれん)という僧侶にまつわる説話を絵画化しています。第1巻は、いきなり奇蹟の場面から始まります。

 命蓮は、自分は信貴山にいながら超能力で鉢を山麓の長者の屋敷に飛ばし、お布施を受けていました。ところが、長者が施しを怠って、鉢を倉に入れたままにしたため、鉢は倉の錠前を破って転がり出ます。金色の鉢はそのまま千石の米俵が入った校倉を持ち上げて、空中を飛び、信貴山の上に長者の倉を運び去ってしまいます。ここで倉は、その下の方の部分しか見えません。上の方は画面の外側に出てしまっています。画面の枠が倉を切り取ることで、倉が日常の世界から切り離された、超常的な高さにあることが強調されるのです。

 長者は馬に乗り、供を連れて倉を追いかけます。倉はやはりそのほとんどの部分を画面の外に出して、空中をゆらゆらと飛んで行きます。絵巻の形式の源流は中国にあるのですが、中国の説話を描く絵画で、画巻(巻物)の形式に描かれたものに、同様の表現を見せるものはありません。いま知られている中国の画巻では、出来事は全て画面の枠内に収まるように描かれます。

 信貴山にたどり着いた長者は、倉を返してほしいと命蓮に懇願し、命蓮は倉を残して中の米俵だけを返すと言います。鉢に米俵1俵だけを乗せると、それに続いてほかの米俵も空中を飛び始めます。

 この場面でも、何十俵もの米俵は、その上の方が画面の上端で切り取られています。この現象が日常の世界をはるかに離れた高さで起こって...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
岡倉天心『茶の本』と日本文化(1)岡倉天心の生涯
岡倉天心の『茶の本』…世界に向けた日本伝統文化の発信
大久保喬樹
印象派の誕生~8人の主要な芸術家
マネ、モネ、ルノワール…芸術家8人の関係と印象派の誕生
安井裕雄
深掘りシェイクスピア~謎の生涯と名作秘話(1)シェイクスピアの謎
シェイクスピアの謎…なぜ田舎者の青年が世界的劇作家に?
河合祥一郎
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
音楽はなぜ時代を映し出すのか?…音楽と人の歴史の関係
片山杜秀
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子

人気の講義ランキングTOP10
デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム
デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム
津崎良典
内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解
偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動
島田晴雄
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制
『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割
今井むつみ
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題
「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方
東秀敏
認知バイアス~その仕組みと可能性(1)認知バイアス入門
誰もが陥る「認知バイアス」…その例とメカニズム
鈴木宏昭
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫