文明語としての日本語の登場
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日本人はいつから「漢字仮名交じり」を使うようになったか
文明語としての日本語の登場(5)仮名文字と文芸の成立
釘貫亨(名古屋大学名誉教授)
10世紀から11世紀に生まれた王朝文芸は、日本が世界に誇る文化遺産である。ここでは紫式部、清少納言、紀貫之などが筆をふるった文章が「平仮名」のみを用いた点に注目したい。当時の発音は仮名と結びついていたため、平仮名の文章を読むことに不便はなかったが、やがて音韻が次の変化を促すようになる(全6話中第5話)。
時間:9分14秒
収録日:2023年12月1日
追加日:2024年4月5日
≪全文≫

●オール平仮名表記だった王朝文芸


 私たちは『古今和歌集』『枕草子』『源氏物語』などというと、高校で習った古文の教科書に載っているものを連想します。あれはだいたい「はるはあけぼの」というと、「春」は漢字で書いてあるし、場合によっては「あけぼの」も漢字で書いています。そのようなことは、当時はないのです。平安時代はオール平仮名です。

 『古今集』もそうで、全部平仮名で書いてあります。音声の変化を経てしまっている私たちにとって、オール平仮名というのはちょっと扱いにくいものです。非常に読みにくいのですが、当時の人にとってはすべての発音が全部貼り付いているから、平安時代の頃の古い写本はオール平仮名で何も不自由はありませんでした。

 それで、次の資料を見てください。「世界に誇る王朝仮名文芸」です。この10世紀から11世紀にかけての100年間には、『古今集』『源氏物語』をはじめ『枕草子』などが書かれた。10世紀から11世紀の王朝文芸というのは世界に誇るべき文化遺産だと考えられているほど、日本文学のなかで長く続く一つの模範的な型をつくった時代なのです。

 その後の鎌倉時代の物語や和歌であっても、平安時代風の和歌、王朝風の和歌を詠まないといけないのです。それは、あたかも中国において唐詩が詩のモデルになったのと同じです。なぜか。唐詩がモデルになったのは李白や杜甫や白居易のようなスーパースターが現れたからで、だから模範になった。われわれ日本人にとって古典古文と考えられるのは、清少納言や紫式部や紀貫之のようなスーパースターが現れた平安時代の言葉による文芸作品です。

 ですので、高等学校の古文の時間でも平安文法を教わるわけです。「係り結び」もそうです。平安文法から外れたような係り結びは、鎌倉時代あたりになるといっぱい出てきます。でも、それは通用しない。それを使うと、大学に入れてくれないわけです。たとえば已然形の「こそ」を用いて「今こそ別れ目いざさらば」。このように已然形で結ばない限り、またそれが已然形であることを理解していない限り、いまだに大学には入れてくれません。

 それは、平安時代の文法を模範にしているわけです。では、なぜ平安時代の文法が模範なのか。それは前述したように、紫式部や清少納言や紀貫之のようなスーパースターがいたからで、後...

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