文明語としての日本語の登場
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
日本人はいつから「漢字仮名交じり」を使うようになったか
文明語としての日本語の登場(5)仮名文字と文芸の成立
釘貫亨(名古屋大学名誉教授)
10世紀から11世紀に生まれた王朝文芸は、日本が世界に誇る文化遺産である。ここでは紫式部、清少納言、紀貫之などが筆をふるった文章が「平仮名」のみを用いた点に注目したい。当時の発音は仮名と結びついていたため、平仮名の文章を読むことに不便はなかったが、やがて音韻が次の変化を促すようになる(全6話中第5話)。
時間:9分14秒
収録日:2023年12月1日
追加日:2024年4月5日
≪全文≫

●オール平仮名表記だった王朝文芸


 私たちは『古今和歌集』『枕草子』『源氏物語』などというと、高校で習った古文の教科書に載っているものを連想します。あれはだいたい「はるはあけぼの」というと、「春」は漢字で書いてあるし、場合によっては「あけぼの」も漢字で書いています。そのようなことは、当時はないのです。平安時代はオール平仮名です。

 『古今集』もそうで、全部平仮名で書いてあります。音声の変化を経てしまっている私たちにとって、オール平仮名というのはちょっと扱いにくいものです。非常に読みにくいのですが、当時の人にとってはすべての発音が全部貼り付いているから、平安時代の頃の古い写本はオール平仮名で何も不自由はありませんでした。

 それで、次の資料を見てください。「世界に誇る王朝仮名文芸」です。この10世紀から11世紀にかけての100年間には、『古今集』『源氏物語』をはじめ『枕草子』などが書かれた。10世紀から11世紀の王朝文芸というのは世界に誇るべき文化遺産だと考えられているほど、日本文学のなかで長く続く一つの模範的な型をつくった時代なのです。

 その後の鎌倉時代の物語や和歌であっても、平安時代風の和歌、王朝風の和歌を詠まないといけないのです。それは、あたかも中国において唐詩が詩のモデルになったのと同じです。なぜか。唐詩がモデルになったのは李白や杜甫や白居易のようなスーパースターが現れたからで、だから模範になった。われわれ日本人にとって古典古文と考えられるのは、清少納言や紫式部や紀貫之のようなスーパースターが現れた平安時代の言葉による文芸作品です。

 ですので、高等学校の古文の時間でも平安文法を教わるわけです。「係り結び」もそうです。平安文法から外れたような係り結びは、鎌倉時代あたりになるといっぱい出てきます。でも、それは通用しない。それを使うと、大学に入れてくれないわけです。たとえば已然形の「こそ」を用いて「今こそ別れ目いざさらば」。このように已然形で結ばない限り、またそれが已然形であることを理解していない限り、いまだに大学には入れてくれません。

 それは、平安時代の文法を模範にしているわけです。では、なぜ平安時代の文法が模範なのか。それは前述したように、紫式部や清少納言や紀貫之のようなスーパースターがいたからで、後...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
岡倉天心『茶の本』と日本文化(1)岡倉天心の生涯
岡倉天心の『茶の本』…世界に向けた日本伝統文化の発信
大久保喬樹
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
日本美術論~境界の不在、枠の存在(1)具象と抽象の共存
日本美術の特徴を示す矛盾した2つの要素とは?
佐藤康宏
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫
『源氏物語』を味わう(1)『源氏物語』を読むための基礎知識
源氏物語の基礎知識…人物関係図でみる物語の流れと読み方
林望

人気の講義ランキングTOP10
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
内側から見たアメリカと日本(7)ジャパン・アズ・ナンバーワンの弊害
ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害
島田晴雄
プロジェクトマネジメントの基本(1)国際標準とプロジェクトの定義
プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性
大塚有希子
歴史の探り方、活かし方(7)史料の真贋を見極めるために
質疑編…司馬遼太郎の「史料読解」をどう評価する?
中村彰彦
熟睡できる環境・習慣とは(2)酒、コーヒー、ブルーライトは悪者か
ブルーライトは悪者か?近年分かった「第3の眼」との関係
西野精治
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
経験学習を促すリーダーシップ(3)成功の再現性と教え上手の指導法
教え上手の指導法に学ぶ!成功の再現性を高める4ステップ
松尾睦
危機のデモクラシー…公共哲学から考える(1)ポピュリズムの台頭と社会の分断化
デモクラシーは大丈夫か…ポピュリズムの「反多元性」問題
齋藤純一