文明語としての日本語の登場
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
平安文学の危機と藤原定家による「漢字仮名交じり」の試み
文明語としての日本語の登場(6)鎌倉ルネサンス
釘貫亨(名古屋大学名誉教授)
公家から武家の世へと政権や人心が移る頃、乱れる日本語を通して公家文化の再復興につとめたのが、藤原定家である。釘貫氏が「鎌倉ルネサンス」と呼ぶ彼の活動は「定家仮名遣い」を産み、さらに写本のかたちで定着させていった。現代われわれが接する平安文学もまた、その影響を帯びたものだといえよう(全6話中第6話)。
時間:11分12秒
収録日:2023年12月1日
追加日:2024年4月12日
≪全文≫

●仮名遣いと公家の教養の関係とは?


 次のページを見ると、「仮名遣いの問題は」とありますが、定家は「仮名遣い」ということばは使いませんでした。仮名遣いという言い方は、室町時代の歌学から出てきます。定家は、「嫌文字事」というふうに書き、そこで仮名遣いを問題にしました。

 われわれの場合は現代風に「仮名遣いの問題」が起こったというふうに考え、そう言ってもかまわないと思います。「仮名遣いの問題は、勅撰集や歌合(うたあわせ)を営んでいた公家の教養に危機をもたらした」ということです。

 歌合というのは、今の紅白歌合戦のように左と右に分けて、1首ずつ争い、勝ち負けを決めるわけです。勝負にはレフェリーがいて、「左が勝った」「右が勝った」というのですが、これは競争ですから、おそらく大変なプライドが激突したことでしょう。

 そのときに、仮名の綴り方を間違えて──たとえば田舎の「い」を、ゐのししの「ゐ」でなく、「いなか」と──書いたら、腹の底でハハッと笑われて、一巻の終わりとなります。ですから、これは深刻な問題であったと思います。

 そこで、「これは危ない。とくに貴族文化にとっては致命的だ」ということで、定家が乗り出した。なぜそう思ったかというと、藤原定家の時代は源平の争いの時代だったからです。源氏方が勝って源頼朝が鎌倉に幕府を築いた。それまで公家文化が絶対中心だった貴族文化に非常な危機感が生まれていたのです。

 そこで、定家は「もう一度公家の文化を再復興しないと大変なことになる」と思ったのでしょう。そこからの動きを、私のことばでは少し気取って「鎌倉ルネサンス」と呼んでいます。仮名の綴り方、なかでも雅語(がご)や歌語の仮名の綴り方をきちんと固定化し、均質化しておかないと大変なことになるということで、彼は立ち上がったのだと思います。


●「嫌文字事」に見る定家の決意と実践方法


 資料の④を見てください。藤原定家『下官集』という書物で、古典書写のマニュアル本です。ここで「嫌文字事(文字を嫌うこと)」とされているのが、われわれの今了解している仮名遣いの問題です。

 これは「他人は惣じて(総じて)然らず。又先達、強ひて此の事無し」。他人のことは知らないし、先達がいたかどうかも知りません、と...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫
深掘りシェイクスピア~謎の生涯と名作秘話(1)シェイクスピアの謎
シェイクスピアの謎…なぜ田舎者の青年が世界的劇作家に?
河合祥一郎
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子

人気の講義ランキングTOP10
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(2)戦争省とチャーリー・カーク暗殺事件
チャーリー・カーク暗殺事件とは?その真相と政権への影響
東秀敏
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(6)評価制度設計と「夢」の重要性
なぜ二本立ての評価制度が必要か…多種多様な人材の評価法
水野道訓
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
いま夏目漱石の前期三部作を読む(1)夏目漱石を読み直す意味
メンタルが苦しくなったら?…今、夏目漱石を読み直す意味
與那覇潤
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(2)言葉を理解するプロセスとスキーマ
なぜ子どもは教えられても理解できないのか?鍵はスキーマ
今井むつみ
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏
組織心理学~「不満」を生かす(1)不満・相談・予防
職場への不満は6割以上~ポイントは隠蔽、心理的安全性…
山浦一保