文明語としての日本語の登場
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万葉仮名から平仮名へ…「いろは歌」が示す日本語の変化
文明語としての日本語の登場(4)平安時代語と文芸の登場
釘貫亨(名古屋大学名誉教授)
平安時代に入ると、日本語の母音は八つから五つに減り、各種の音便ができる。単語は長く、発音はルーズになっていくのだ。文字の歴史は万葉仮名から平仮名と片仮名が生まれる画期的な時期を迎え、「いろは歌」が成立して手習い歌として親しまれる。こうした変化がやがて王朝文芸を支えていくのである(全6話中第4話)。
時間:11分05秒
収録日:2023年12月1日
追加日:2024年3月29日
≪全文≫

●「音便」が伝える単語の多音節化


 奈良時代語については以上のことが分かったわけですが、次に平安時代になるとどうなるか。

 発音の歴史からいうと、新しい事実が奈良時代から平安時代にかけて出ます。その一つは、前回お話しした8母音から5母音へ減ったことです。

 それからもう一つは、「音便」ができたこと。音便というのは、たとえばイ音便「書いて」、ウ音便「悲しうす」、撥音便「飛んで」、促音便「切って」など。習われた方も多いと思いますが、とくに平安時代語では、文法的な機能が非常に活発化して、音便が増えます。「て」という助詞がくっついたときには、文法的な単位が大きくなる。つまり、それが一つの単語になります。

 今までであれば、たとえば「と・り・て」というかたちでクッと隣接しただけでした。その「とりて」が「とって」になることは、「とって」で1単語であるということです。音便はいわばその標識(マーク)であるといえます。

 これは私事ですが、先日テレビに出ました(笑)。「『ん』という平仮名は音便を表す。だから、これは接着剤だ」というようなことを話したのをご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。接着剤というのは、単語と単語をくっつける働きがあり、単に並ぶのではない。音の変化によってグニャッとくっつけるかたちの音便ができたのは、平安時代語の大きな特徴です。

 その背景には多音節化する、つまり日本語の単語が長くなるという趨勢がありました。「掛く」が「掛かる」、「ひ」が「ひかり」になって多音節化するという趨勢のなかで、発音が非常にルーズになっても許容される。そのために、このような音便ができあがってきたのだと推測されます。


●平仮名と片仮名の成立と用途


 発音の変化とともに、奈良時代から平安時代にかけては文字が変わりました。つまり、奈良時代には仮名といっても万葉仮名しかなかった。だから、すべて漢字で書かなければならず、書くのにやたら時間がかかる。

 ところで『源氏物語』は54帖あります。これは散文文学で、『伊勢物語』も『枕草子』も同様です。散文を万葉仮名でいちいち書いていたら大変です。だから、私たちが研究する奈良時代の発音を復元する資料としては万葉仮名が大変ありがたいですが、使う側にとってはなかなか難しいものです。

 です...

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