山上憶良「沈痾自哀文」と東洋的死生観
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映画『君たちはどう生きるか』とつながる山上憶良の答え
山上憶良「沈痾自哀文」と東洋的死生観(3)「沈痾自哀文」現代語訳を読む
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授(特別専任)/奈良大学 名誉教授)
宮崎駿監督の映画『君たちはどう生きるか』の一つの大きなテーマは、自分が恵まれていることにどう気づくかではないかと上野氏はいう。これは戦後日本のあり方、目指すべきものへの痛烈な問いかけではないだろうか。このことについて、「沈痾自哀文」の現代語訳を読みながら、山上憶良の答えとともに考えていく。(全4話中第3話)
時間:10分39秒
収録日:2024年4月2日
追加日:2024年7月26日
≪全文≫

●山上憶良の「沈痾自哀文」を現代語訳で読んでみる


 それでは、「沈痾自哀文」について、私が新しく作り直してみた訳で、少し読んでみましょう。

 〈天地の大徳は生である〉というではないか――。故に、死したる人は生きている鼠にも及ばない。王侯といっても、いったん息の根が絶えてしまえば、積み上げたお金がたとえ山のごとくにあったとて、誰が裕福だと認めてくれるのか。権力が大海のごとくにあったとて、誰が貴んでくれようか。遊仙窟(ゆうせんくつ)が説くところでは、「泉下(死後の世界)の人には、一銭の値打ちすらもない」という。また孔子の説くところでは、「天よりの授かりもので、変えることができぬものは形であり、天よりいのちを受けて、増してもらえぬものは寿命なり」と言う〔これは、鬼谷(きこく)先生の相人書(そうにんしょ)に見える言葉である〕。だからこそ、生が極めて貴く、いのちに至っては、はなはだ重いということに思いをいたすのである。言おうとしても言い難く、何をもって言えばよろしかろうかと思案しようとしても、何によって考えればよいのか、何によって思案すればよいのか、難しいところだなあ──。

 このぐらいの感じが憶良のいうところでしょう。文章の最初に出てくることば「天地の大徳は生であると言うではないか」、これは中国の『易経』という書物に現れていることばで「天地の大徳を生と曰ふ」。「大徳」は大きな徳です。「天と地の最も大きな徳目は、まず生きているということだ」というように、これをまずは(この沈痾自哀文の最初に)持ってきたわけです。これが憶良の最終的に行き着いたところであろうと思うわけです。

 そこで考えてみると、憶良の出した答えは何かというと、こういう答えになります。

 「善人であっても、幸せな人もいれば不幸な人もいる。悪人であっても、幸せな人もいれば不幸な人もいる。ならば、生きているということが最大の幸せである。」

 最後の結論は、ここに来るわけです。


●『君たちはどう生きるか』のテーマと日本への大きな問いかけ


 さて、私は大学院の頃には高校で教えさせてもらっていました。それが23~24歳ぐらいの頃で、今は64歳なので、かれこれ40年というもの、学校の先生をしているわけです。

 今の日本社会では、若い人たちの間にいろいろな問題があります...

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