山上憶良「沈痾自哀文」と東洋的死生観
この講義シリーズは第2話まで
登録不要で無料視聴できます!
第1話へ
▶ この講義を再生
この講義の続きはもちろん、
6,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
(会員の方に広告は表示されません)
映画『君たちはどう生きるか』とつながる山上憶良の答え
山上憶良「沈痾自哀文」と東洋的死生観(3)「沈痾自哀文」現代語訳を読む
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授(特別専任)/奈良大学 名誉教授)
宮崎駿監督の映画『君たちはどう生きるか』の一つの大きなテーマは、自分が恵まれていることにどう気づくかではないかと上野氏はいう。これは戦後日本のあり方、目指すべきものへの痛烈な問いかけではないだろうか。このことについて、「沈痾自哀文」の現代語訳を読みながら、山上憶良の答えとともに考えていく。(全4話中第3話)
時間:10分39秒
収録日:2024年4月2日
追加日:2024年7月26日
≪全文≫

●山上憶良の「沈痾自哀文」を現代語訳で読んでみる


 それでは、「沈痾自哀文」について、私が新しく作り直してみた訳で、少し読んでみましょう。

 〈天地の大徳は生である〉というではないか――。故に、死したる人は生きている鼠にも及ばない。王侯といっても、いったん息の根が絶えてしまえば、積み上げたお金がたとえ山のごとくにあったとて、誰が裕福だと認めてくれるのか。権力が大海のごとくにあったとて、誰が貴んでくれようか。遊仙窟(ゆうせんくつ)が説くところでは、「泉下(死後の世界)の人には、一銭の値打ちすらもない」という。また孔子の説くところでは、「天よりの授かりもので、変えることができぬものは形であり、天よりいのちを受けて、増してもらえぬものは寿命なり」と言う〔これは、鬼谷(きこく)先生の相人書(そうにんしょ)に見える言葉である〕。だからこそ、生が極めて貴く、いのちに至っては、はなはだ重いということに思いをいたすのである。言おうとしても言い難く、何をもって言えばよろしかろうかと思案しようとしても、何によって考えればよいのか、何によって思案すればよいのか、難しいところだなあ──。

 このぐらいの感じが憶良のいうところでしょう。文章の最初に出てくることば「天地の大徳は生であると言うではないか」、これは中国の『易経』という書物に現れていることばで「天地の大徳を生と曰ふ」。「大徳」は大きな徳です。「天と地の最も大きな徳目は、まず生きているということだ」というように、これをまずは(この沈痾自哀文の最初に)持ってきたわけです。これが憶良の最終的に行き着いたところであろうと思うわけです。

 そこで考えてみると、憶良の出した答えは何かというと、こういう答えになります。

 「善人であっても、幸せな人もいれば不幸な人もいる。悪人であっても、幸せな人もいれば不幸な人もいる。ならば、生きているということが最大の幸せである。」

 最後の結論は、ここに来るわけです。


●『君たちはどう生きるか』のテーマと日本への大きな問いかけ


 さて、私は大学院の頃には高校で教えさせてもらっていました。それが23~24歳ぐらいの頃で、今は64歳なので、かれこれ40年というもの、学校の先生をしているわけです。

 今の日本社会では、若い人たちの間にいろいろな問題があります...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
(会員の方に広告は表示されません)
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(1)AIに代わられない仕事とは何か
江藤淳と加藤典洋――AI時代を生きる鍵は文芸評論家の仕事
與那覇潤
深掘りシェイクスピア~謎の生涯と名作秘話(1)シェイクスピアの謎
シェイクスピアの謎…なぜ田舎者の青年が世界的劇作家に?
河合祥一郎
『万葉集』と律令社会~官僚の心得と歌宴(1)国守・大伴家持と地方社会の日常
『万葉集』でわかる奈良時代の貴族と地方豪族の関係と日常…歌人・大伴家持の歌に秘められた国守時代の苦労話
上野誠
山上憶良「沈痾自哀文」と東洋的死生観(1)因果応報と日本仏教の課題
山上憶良が「沈痾自哀文」で問いかけた因果応報の問題
上野誠
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆

人気の講義ランキングTOP10
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
ロシア人の見る「ロシアの歴史」(1)会ってみたプーチン…その実像
ロシア人の見る「ロシアの歴史」を知るとロシアがよくわかる・・・実際に会ってみたプーチンの印象とは?
上月豊久
民主主義の本質(1)近代民主主義とキリスト教
なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景
橋爪大三郎
『万葉集』と律令社会~官僚の心得と歌宴(4)郡家の発掘と新田山を詠んだ東歌
「東歌」に刻印された奈良時代の真実とは?…地方に気をつかい地方のパワーを取り込んで中央政権はできていた
上野誠
プラトン『ポリテイア(国家)』を読む(14)ポリスと魂の堕落過程〈下〉僭主の末路
僭主制は欲望の奴隷…過度の自由が過度の隷属に転換する
納富信留
数学と音楽の不思議な関係(2)リズムと数の不思議と変拍子
童歌「あんたがたどこさ」は何拍子?変拍子の不思議な魅力
中島さち子
小澤開作と満洲事変・日中戦争(1)少年時代の苦労と五族協和の夢
満洲で「五族協和」に命を懸けた小澤征爾の父・小澤開作
小澤俊夫
高齢者のフレイル・認知症とその予防対策(1)老年病科と高齢者の疾患・病態の特徴
頻尿、低栄養、転倒、誤嚥、フレイル…増える老年症候群と高齢者の疾患・病態の特徴
小川純人
オリエント 東西の戦略史と現代経営論に学ぶ(1)ビジネスのヒントは歴史にあり
『失敗の本質』、中国古典…ビジネスのヒントを歴史に学ぶ
三谷宏治
文明語としての日本語の登場(1)古代日本語の復元
なぜ「てふてふ」が蝶々?日本語の変遷を追う…まずは万葉仮名から
釘貫亨