●幸せには長続きしない幸せと、長続きする幸せがある
さて、私の研究に少しずつ移っていきたいと思います。これも重要な点ですが、幸せには長続きしない幸せと、長続きする幸せがあるという研究結果があります。長続きする幸せとしない幸せでは、長続きするほうがいいですよね。
それでは、具体的には長続きしない幸せとは何でしょう。スライドに示したように、「地位財」が長続きしない幸せです。地位財(positional goods)とは、ロバート・フランク氏が提唱した経済学用語です。これは、周囲との比較により満足を得られる財のことを指します。より具体的には、所得や社会的地位、物的財が挙げられます。簡単にいうと、金・物・地位の三つです。金銭欲や物欲、名誉欲は誰しもが持っていると思います。ところが、この欲求を満たしたことによる幸せは持続性が低い、つまり長続きしないことが分かっています。
例えば、給料が増えるとうれしいですが、その喜びは1年も続くことはあまりありません。むしろ、もっと上がるといいと思うでしょう。また、例えば課長に昇進した場合でも、1年間喜んでいる人はいません。重圧もあれば、もっと偉くなりたいという欲求も出てくると思います
どういうことかというと、地位財をある程度得たとしても、その状態に慣れてしまうので、そうなるともっと上のもの、大きいものが欲しくなります。しかし、より大きな財を得ても、先ほどの限界効用逓減の法則があります。最初は、財を得ることで幸せは大きく上昇します。初めて平社員から主任に昇進したときには、ついに主任になったと喜びますが、課長から副部長に昇進しても、周りも出世していて、まだまだだと思ってしまいます。お金や出世による地位の上昇から得られる幸せは、増えるにつれてより幸福度に寄与しなくなることが一つあります。もう一つの理由として、より上を見ると、さらに次が欲しくなるという効果で、長続きしないといわれています。
一方で長続きする幸せは、ここに書いたように環境・身体・心の幸せです。Well-beingの定義として、精神的・身体的・社会的に良好な状態が挙げられていました。環境、つまり社会的に良い状態にあること。そして身体的に良い状態にあること、心が良い状態にあることが、長続きする幸せのために重要なことなのです。金・物・地位などの派手なものに比べると、精神的・身体的・社会的に良好な状態とは、真面目で地味なように感じられるかもしれません。しかし、実はこちらが長続きする幸せに寄与するのです。
私が研究しているのは、心の部分ですね。心による幸せを分析すると、いくつか興味深いことが分かりました。
●幸せの源泉は4つの軸に収斂していく
幸せについて多くの研究が行われていますが、特に心が原因である幸せに関する研究は非常に多いのです。ここには、夢や目標があること、楽観的であること、それから感謝をすること、などの要素が挙げられていますが、どのような心の状態が幸せと結びつくか調べる研究は、世界中の心理学者や様々な研究者によって行われています。
私は、1500人の日本人に対して心的要因全項目アンケートという100問近いアンケートを行いました。それらは全て幸せに関係するものです。その回答結果を、因子分析という手法で分析しました。
それが、スライドの図です。この結果は、要するに多変量解析というもので、多くの次元から構成される問題を、より少ない量の次元に縮退するものです。少し難しいので分かりやすく例えると、三原色のようなものです。世の中には、無限に色があります。それらの無限の色は、実は赤・青・黄色の三原色と、それから4軸目の明るさによって表現することができます。赤・青・黄色・明るさによって、全ての色は数値化できるということです。つまり、無限にある色を、4軸の直交軸で表したものが、三原色プラス明るさなのです。同様に味に関しても、苦さ・甘さ・しょっぱさ・酸っぱさ・うまみなど、いくつかの軸でさまざまな味を表現することができます。
同じように、心の幸せにも多くの原因がありますが、因子分析という手法を用いると、その根本となる軸が決定できるのです。その結果、4つの軸が発見されました。このことについてお話ししましょう。
●幸せの因子の1つ目は「やってみよう因子」
「幸せの4つの因子」と書きましたが、偶然4つ見つかりました。幸せの四つ葉のクローバーを連想させますね。ですので、四つ葉のクローバーと結びつけて、幸せになる条件4つを覚えていただければ...