平安時代の歴史~「貴族道」と現代
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
左道に訴えないーー『古事談』が伝える「貴族道」の本質
平安時代の歴史~「貴族道」と現代(9)「貴族道」の「貴族道」たる所以
関幸彦(歴史学者/元日本大学文理学部史学科教授)
平安時代、暴力や武力は「左道」にあたり、やってはいけないことを意味する。「貴族道」は劣勢であっても決して左道、すなわち暴力や武力に訴えず、議論でそのことを伝えていく。つまり客観性と平和主義とを重んじる価値観を示している。『古事談』にある実方中将と藤原行成の説話から、そのことを具体的にうかがい知ることができる。中世の時代を長く築いてきた当時の貴族たちの行動規範や思想に学ぶことは、現代社会でも大いに参考になるはずだ。(全9話中第9話)
時間:16分37秒
収録日:2023年10月20日
追加日:2024年3月1日
≪全文≫

●「左道」に訴えないーー『古事談』にみる「貴族道」が「貴族道」たる所以


 具体的な事例でいいますと、説話の中で前にお話しした『古事談』というのがまた出てきます。その『古事談』の中に、史実に近いとされていますが、実は『百人一首』で皆さんご承知の藤原実方(さねかた)、通称・実方中将という人物がいます。

 実方に関しては、系図資料があります。その系図資料をご覧いただくと、実方について登場する系図があって、「実方略系図」というものです。三平の中の忠平の系譜の中に、忠平の子どもに師尹(もろただ)がいて、その孫にあたるのが実方という人物です。

 一方、系図では、その師輔(もろすけ)というのも先ほど出てきました。この師輔の系譜にあたるのが(藤原)行成(こうぜい)という人物がいます。行成(ゆきなり)ということですね。この行成(こうぜい/ゆきなり)は道長のブレーンの1人でもありました。

 よく三蹟といいますが、三蹟と三筆というのは知っての通り、三筆というのは唐風、中国風の筆の名人で、三蹟というのは国風の言い方です。その三蹟の1人に行成という人物がいます。彼は中納言から大納言へと出世していく人ですが、この実方と行成があるとき口論に及んだのです。

 この口論に及んだ最大の理由は、その実方は『百人一首』でも登場しているように、自分は歌の名人であるとけっこう鼻高々に思っていましたが、行成の「あいつ(実方)は大したことない」という悪口を聞いたからです。本当に言ったのかどうかは分かりません。しかし、その噂――行成が(悪口を)言っているということを聞いた実方は、清涼殿のときに行き会った殿上の間の中で、行成の烏帽子(えぼし)を坪庭にドーンと投げてしまいます。つまり暴力を使ったわけです。

 当時の貴族たちにとっては、暴行、暴力というのは「左道」で、左道というのは左の道ということで、正しい道ではないということです。

 皆さんもお分かりのように、日本国は漢語・漢字の文化圏ですから、例えば右に対して左、それから黒に対しては白で、黒白をつけるなどといいます。白がプラスのイメージ、黒はマイナスのイメージで、左がマイナスのイメージ、右がプラスのイメージです。

 縦と横についても、(横は)横っ面、横槍といい、これは負のイメージです。ところが、縦はまっ...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
『江戸名所図会』で歩く東京~吉原(1)「苦界」とは異なる江戸時代の吉原
遊女の実像…「苦界?公界?」江戸時代の吉原遊郭の真実
堀口茉純
「武士の誕生」の真実(1)10世紀の東アジア情勢と「王朝国家」
「王朝国家」と「武士」が誕生した理由は大唐帝国の解体
関幸彦
徳川将軍と江戸幕府~徳川家斉(1)家斉が長期政権を維持できた理由
11代将軍・徳川家斉が50年もの長期政権を築けた理由
山内昌之
本当のことがわかる昭和史《1》誰が東アジアに戦乱を呼び込んだのか(1)「客観的かつ科学的な歴史」という偽り
半藤一利氏のベストセラー『昭和史』が持つ危険な面とは?
渡部昇一
豊臣政権に学ぶ「リーダーと補佐役」の関係(1)話し上手な天下人
織田信長と豊臣秀吉の関係…信長が評価した二つの才覚とは
小和田哲男
ローマ史と江戸史で読み解く国家の盛衰(1)父祖の遺風
なぜ「父祖の遺風」がローマと江戸に共通する価値観なのか
本村凌二

人気の講義ランキングTOP10
内側から見たアメリカと日本(6)日本企業の敗因は二つのオウンゴール
日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール
島田晴雄
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン
西野精治
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実
不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?
垂秀夫
日本の財政と金融問題の現状(1)財政赤字の何が問題か
日本の財政は本当に悪いのか?将来世代と金利の問題に迫る
木下康司
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
戦史に見る意思決定プロセス~日本海軍の決断(1)日本海海戦・東郷平八郎
なぜ東郷平八郎はバルチック艦隊を対馬で迎え撃ったのか?
山下万喜