百人一首の和歌
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
和泉式部の『百人一首』の歌は最も情熱的
百人一首の和歌(3)和泉式部
渡部泰明(東京大学名誉教授/国文学研究資料館館長)
東京大学大学院人文社会系研究科教授の渡部泰明氏が百人一首の和歌について解説するシリーズレクチャー。第3回では、日本史上最大級の女性歌人ともいえる和泉式部の歌を取り上げる。渡部氏は、百人一首に選ばれた情熱的な一首に従来の訳とは異なる解釈を加えているが、それはこの歌に和泉式部らしい特色が非常に強く表れているからだという。(全5話中第3話)
時間:14分45秒
収録日:2018年4月2日
追加日:2018年6月23日
カテゴリー:
≪全文≫

●平安時代最大の女性歌人・和泉式部


 和泉式部の歌についてのお話をしたいと思います。和泉式部の『百人一首』の歌は次の一首になりますが、有名な歌です。

 あらざらむこの世のほかの思ひ出にいまひとたびの逢ふこともがな

 これは、『百人一首』の歌の中でも一番情熱的な歌ではないかなと思います。あるいは「この歌が一番好きだ」などという人も何人か私は存じ上げていますけれども、非常にいい歌だと思います。

 和泉式部といえば平安時代、その中でも王朝文化最盛期を支えた女流文学者です。紫式部、清少納言たちと同世代で、宮中を中心に日本の貴族文化が最盛期を迎えた時代。そこで活躍した歌人であり平安時代最大の女流歌人、あるいは歴史上現れた女性歌人の中でも最大級であると言って構わないだろうと思います。その和泉式部の歌として、この歌が入っているのです。


●情熱的でさまざまな議論を呼ぶ一首

 
 また、例によって詞書がありませんので、ではどういう状況で詠まれたのかということは、この歌が採られた『後拾遺和歌集』という4番目の勅撰和歌集に当たってみなければなりません。そこにはこうあります。

 心地例ならず侍りけるころ、人のもとにつかはしける 和泉式部
 あらざらむこの世のほかの思ひ出にいまひとたびの逢ふこともがな」(後拾遺集・恋三・七六三)

 さてこの歌は大変有名で、好きな人も多く、また非常に情熱的な歌として知られているわけですが、実は解釈にかなり議論の余地があるのです。例えば、代表的な解釈を1つ挙げておきましょう。『新日本古典文学大系』(岩波書店から出ている古典の注釈叢書)の中の『後拾遺和歌集』の注釈ではこうなっています。

「私はこのまま死んでしまうでしょう。来世の思い出としてもう一度あなたにお会いしとうございます」

 かなりオーソドックスなもので、こういう感じで理解している人も多いし、こういう訳が多いのではないかと思います。

 もう1つ、今度は非常に特色ある訳です。小松登美さん(元跡見学園短期大学・同女子大学教授)他4人でなさった注釈で、中心的なのは小松登美さんという方なのですが、こうあります。

「今度はもうとても助からないと思いますの。あの世までの思い出にもう一目お目にかかるすべでもあればと思いますわ」

 この訳は『和泉式部集全釈』という本の中に入っていますが、何か...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫
おみくじと和歌の歴史(1)おみくじは詩歌を読む
おみくじは「吉凶」だけでなく「和歌や漢詩」を読むのが本当
平野多恵
『源氏物語』を味わう(1)『源氏物語』を読むための基礎知識
源氏物語の基礎知識…人物関係図でみる物語の流れと読み方
林望
百人一首の和歌(1)謎の多い『百人一首』
『百人一首』の歌が選ばれた理由とは?今も残る3つの謎
渡部泰明
『古今和歌集』仮名序を読む(1)日本文化の原点となった「仮名序」
『古今和歌集』仮名序とは…日本文化の原点にして精華
渡部泰明

人気の講義ランキングTOP10
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(4)信長の直臣、秀吉の与力としての秀長
最初は信長の直臣として活躍――武闘派・秀長の前半生は?
黒田基樹
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境にどう対峙するか…西洋哲学×東洋哲学で問う知的ライブ
津崎良典
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(4)葛飾応為の芸術と人生
親娘で進歩させた芸術…葛飾応為の絵の特徴と北斎との比較
堀口茉純
人の行動の「なぜ」を読み解く行動分析学(1)随伴性
「なぜ人は部屋を片付けられないか」を行動分析学で考える
島宗理
インテリジェンス・ヒストリー入門(1)情報収集と行動
日本の外交には「インテリジェンス」が足りない
中西輝政
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
平和の追求~哲学者たちの構想(6)EU批判とアメリカの現状
理想を具現化した国連やEUへの批判がなぜ高まっているのか
川出良枝
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ