●平安時代最大の女性歌人・和泉式部
和泉式部の歌についてのお話をしたいと思います。和泉式部の『百人一首』の歌は次の一首になりますが、有名な歌です。
あらざらむこの世のほかの思ひ出にいまひとたびの逢ふこともがな
これは、『百人一首』の歌の中でも一番情熱的な歌ではないかなと思います。あるいは「この歌が一番好きだ」などという人も何人か私は存じ上げていますけれども、非常にいい歌だと思います。
和泉式部といえば平安時代、その中でも王朝文化最盛期を支えた女流文学者です。紫式部、清少納言たちと同世代で、宮中を中心に日本の貴族文化が最盛期を迎えた時代。そこで活躍した歌人であり平安時代最大の女流歌人、あるいは歴史上現れた女性歌人の中でも最大級であると言って構わないだろうと思います。その和泉式部の歌として、この歌が入っているのです。
●情熱的でさまざまな議論を呼ぶ一首
また、例によって詞書がありませんので、ではどういう状況で詠まれたのかということは、この歌が採られた『後拾遺和歌集』という4番目の勅撰和歌集に当たってみなければなりません。そこにはこうあります。
心地例ならず侍りけるころ、人のもとにつかはしける 和泉式部
あらざらむこの世のほかの思ひ出にいまひとたびの逢ふこともがな」(後拾遺集・恋三・七六三)
さてこの歌は大変有名で、好きな人も多く、また非常に情熱的な歌として知られているわけですが、実は解釈にかなり議論の余地があるのです。例えば、代表的な解釈を1つ挙げておきましょう。『新日本古典文学大系』(岩波書店から出ている古典の注釈叢書)の中の『後拾遺和歌集』の注釈ではこうなっています。
「私はこのまま死んでしまうでしょう。来世の思い出としてもう一度あなたにお会いしとうございます」
かなりオーソドックスなもので、こういう感じで理解している人も多いし、こういう訳が多いのではないかと思います。
もう1つ、今度は非常に特色ある訳です。小松登美さん(元跡見学園短期大学・同女子大学教授)他4人でなさった注釈で、中心的なのは小松登美さんという方なのですが、こうあります。
「今度はもうとても助からないと思いますの。あの世までの思い出にもう一目お目にかかるすべでもあればと思いますわ」
この訳は『和泉式部集全釈』という本の中に入っていますが、何か...