●決断とは「理非曲直」の採決
北畠親房によれば、政治とは正直慈悲を本とするもので、それが本元である。そして政治には決断の力が必要だと言うのです。
決断とは、「理非曲直」を明らかにすることです。「理非」というのは、そこに「理(ことわり)」があるか、ないか。正当性があるか、ないか。「曲直」とは、曲がっているか、真っすぐか。すなわちどちらの主張の道筋が間違っていて、どちらが正しいか。このことを「理非曲直」と言いますが、それを採ることを決断と彼は言うのです。
●政治の成功に必要な三要素:賢才を選ぶ、公平に領地を分ける、信賞必罰
では、政治を成功させるために必要な要素は何であるか。第一は、賢才を選ぶ。賢い才能、優秀な人材を選ぶこと。人事が大事で、人材の簡抜が必要だと言うのです。第二は、公平に領地を分けること。私の感情を交えず、公平に恩賞を施すことが大事だと言います。第三は、信賞必罰です。働いたものには報い、働かないものには報いない。根拠のある人への恩賞は篤くするが、そうでない人に恩賞を与える必要はない、あるいは薄くするという信賞必罰です。これらを間違えると、世は乱世となり、乱れた政治になってしまうというのです。
●『太平記』が描き出した後醍醐天皇周辺の乱脈
このような親房の言わんとしたことについては、『神皇正統記』の中よりも、むしろ有名な『太平記』の中に多くのエピソードを見出すことができます。
『太平記』には、後醍醐天皇の側近たちや彼の愛した女御たちが、勝手に荘園や武家の領地を取ったりするところがよく出てきます。また、贅沢さもあります。後醍醐天皇の側近であった千草忠顕については、「酒肉珍膳の費え、一度に万銭も尚足るべからず」と、彼の楽しむ酒や料理、珍奇で珍しい山海の珍味を味わうために支出する総額が、万の銭を投じても到底足りないといった贅沢さ加減でした。
それから、文観(もんかん)という僧正(そうじょう)がいました。この僧侶は「何の用もなきに財宝を倉に積み貧窮を扶(たす)けず」と言われました。何の目的もないのに蔵の中にお金を貯め込んでニンマリする。そして吝嗇(りんしょく)、ケチで、困っている人がいてもそれに耳や目を傾けて助けようとはしない。このような僧侶、宗教者、こうした人物がわが物顔で天下を闊歩していることに触れています。
もっとひどいのは、...