山上憶良「好去好来の歌」を読む
この講義シリーズの第1話
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
言霊の幸わう国とは?なぜ神様?「好去好来の歌」が描く日本
山上憶良「好去好来の歌」を読む(2)言霊の加護ある国の神様と遣唐使
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授(特別専任)/奈良大学 名誉教授)
山上憶良の「好去好来の歌」にはどのようなことが詠われているのか。言霊に加護された大和の国から荒海を旅する遣唐使の危険に対して、海上の道も陸上の道も大和の神々がきっと守ってくれると、その一首には詠まれている。ここで浮かぶ疑問は、大変な仏教者であった山上憶良がなぜ仏の加護を祈らなかったかということだ。(全4話中第2話)
時間:10分51秒
収録日:2024年4月2日
追加日:2024年5月26日
≪全文≫

●好去好来の歌一首を読む


 では、「好去好来の歌」を訳文で読んでみたいと思います。私が作った訳文です。

「好去好来の歌一首」

神代から言い伝えてきた (そらみつ)大和の国は
すめ神々たちも神々しき国 言霊の加護ある国と
語り継ぎ 言い継いできた――
今の世の人ことごとくに
まのあたりに 目にも見て知っている
人たるものは世に満ち満ちてはいるけれども
(高光る)日の朝廷の 神のごとき深慮のままに
ご寵愛を受けて
天下の政にたずさわった 名家の子としてお選びに
なられた(あなたは)
大命の 降下を受けて
唐の国の遠き地に遣わされて旅立たれると……
  ――海原の辺にも沖にも
  鎮まってその道を支配したもう
  もろもろの大御神たちが
  船の舳先に立って 導き申し上げ
  天地の大御神たち 大和の大国魂の神が
 (ひさかたの)大空高くから
  天翔けりお見守りになる――
官命をお果しになって帰ろうとするその日には
またさらに大御神たちが
船の舳先にかの神の手を掛けて
大工の使う墨縄を打ち引いたかのごとくに
(あぢをかし)値嘉の崎より 大伴の御津の浜に
一直線に御船は進んで到着するであろう
つつがなくご無事に旅立たれて
いち早く帰って来ませ(大使様――)」
※『万葉集から古代を読みとく』(上野誠著、ちくま新書)より引用

 こういう歌をかれは詠っています。

 この歌では、大和の国というものは、言霊の加護ある国であると(詠まれている)。言霊とは何かというと、言葉にある(宿る)魂ということです。言葉に魂があるから、嘘をついてはいけない。よい言葉を言わなければいけない。よい言葉を言うためには、よい言葉を学ばなければならない、というように来るわけです。

 つまり、言霊が私たちを守ってくれる国だから、よい言葉を私たちは使いましょうね。言霊が加護している国だよ、と言っているわけです。


●遣唐使は神頼み――「海上にあっては海の神様が導いてくれる」


 さらにどういうことを言っているかというと、「遣唐使」といいますけれど、「遣唐使」というものは大体リスク分散のために4艘ぐらいの船で出る。簡単にいえば、4艘のうち1艘でもたどり着けばいいという航海です。

 しかも、これは当時の国際情勢というか、一つの習慣でそうなるのですが、日本国から唐の皇帝にご挨拶に行くのは、大体20年に1度。そのときの滞...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
岡倉天心『茶の本』と日本文化(1)岡倉天心の生涯
岡倉天心の『茶の本』…世界に向けた日本伝統文化の発信
大久保喬樹
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
音楽はなぜ時代を映し出すのか?…音楽と人の歴史の関係
片山杜秀
日本美術論~境界の不在、枠の存在(1)具象と抽象の共存
日本美術の特徴を示す矛盾した2つの要素とは?
佐藤康宏
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子

人気の講義ランキングTOP10
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン
西野精治
歴史の探り方、活かし方(4)史実・史料分析:秀吉と秀次編〈上〉
史料読解法…豊臣秀吉による秀次粛清の本当の理由とは?
中村彰彦
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(4)全てをつなぐ密教の世界観
密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」
鎌田東二
内側から見たアメリカと日本(4)アメリカ労働史とトランプ支持層
ギャングの代わりに弁護士!? 壮絶なアメリカ労働史の変遷
島田晴雄
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実
不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?
垂秀夫
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
人生100年時代の「ライフシフト概論」(3)キャリアの危機〈下〉
40代前半に訪れる「中年の危機」、鍵は「人生の成長戦略」
徳岡晃一郎