山上憶良「好去好来の歌」を読む
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言霊の幸わう国とは?なぜ神様?「好去好来の歌」が描く日本
山上憶良「好去好来の歌」を読む(2)言霊の加護ある国の神様と遣唐使
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授(特別専任)/奈良大学 名誉教授)
山上憶良の「好去好来の歌」にはどのようなことが詠われているのか。言霊に加護された大和の国から荒海を旅する遣唐使の危険に対して、海上の道も陸上の道も大和の神々がきっと守ってくれると、その一首には詠まれている。ここで浮かぶ疑問は、大変な仏教者であった山上憶良がなぜ仏の加護を祈らなかったかということだ。(全4話中第2話)
時間:10分51秒
収録日:2024年4月2日
追加日:2024年5月26日
≪全文≫

●好去好来の歌一首を読む


 では、「好去好来の歌」を訳文で読んでみたいと思います。私が作った訳文です。

「好去好来の歌一首」

神代から言い伝えてきた (そらみつ)大和の国は
すめ神々たちも神々しき国 言霊の加護ある国と
語り継ぎ 言い継いできた――
今の世の人ことごとくに
まのあたりに 目にも見て知っている
人たるものは世に満ち満ちてはいるけれども
(高光る)日の朝廷の 神のごとき深慮のままに
ご寵愛を受けて
天下の政にたずさわった 名家の子としてお選びに
なられた(あなたは)
大命の 降下を受けて
唐の国の遠き地に遣わされて旅立たれると……
  ――海原の辺にも沖にも
  鎮まってその道を支配したもう
  もろもろの大御神たちが
  船の舳先に立って 導き申し上げ
  天地の大御神たち 大和の大国魂の神が
 (ひさかたの)大空高くから
  天翔けりお見守りになる――
官命をお果しになって帰ろうとするその日には
またさらに大御神たちが
船の舳先にかの神の手を掛けて
大工の使う墨縄を打ち引いたかのごとくに
(あぢをかし)値嘉の崎より 大伴の御津の浜に
一直線に御船は進んで到着するであろう
つつがなくご無事に旅立たれて
いち早く帰って来ませ(大使様――)」
※『万葉集から古代を読みとく』(上野誠著、ちくま新書)より引用

 こういう歌をかれは詠っています。

 この歌では、大和の国というものは、言霊の加護ある国であると(詠まれている)。言霊とは何かというと、言葉にある(宿る)魂ということです。言葉に魂があるから、嘘をついてはいけない。よい言葉を言わなければいけない。よい言葉を言うためには、よい言葉を学ばなければならない、というように来るわけです。

 つまり、言霊が私たちを守ってくれる国だから、よい言葉を私たちは使いましょうね。言霊が加護している国だよ、と言っているわけです。


●遣唐使は神頼み――「海上にあっては海の神様が導いてくれる」


 さらにどういうことを言っているかというと、「遣唐使」といいますけれど、「遣唐使」というものは大体リスク分散のために4艘ぐらいの船で出る。簡単にいえば、4艘のうち1艘でもたどり着けばいいという航海です。

 しかも、これは当時の国際情勢というか、一つの習慣でそうなるのですが、日本国から唐の皇帝にご挨拶に行くのは、大体20年に1度。そのときの滞...

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