空海の真髄
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空海の「宇宙・密教ミュージカル」が築いた日本文化の土台
空海の真髄(7)空海と密教ミュージカル
鎌田東二(京都大学名誉教授)
『三教指帰』を世界最高の卒業論文と評価する鎌田氏は、立身出世の儒教も神仙思想の道教を拒否して、諸行無常・諸法無我の仏教を選ぶ空海には宇宙が投影しているという。そして、空海は、否定するのではなく、どんどんと止揚(アウフヘーベン)して止まない。空海の演じた密教ミュージカルこそが、その後の日本文化の土台を築いていったともいえる。理解の核心は、「詩の力」にあるのだ。詩を理解してこそ、空海の心を理解する扉の鍵は開くのである。(全7話中第7話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:13分32秒
収録日:2024年8月26日
追加日:2024年12月14日
≪全文≫

●『三教指帰』は世界最高の卒業論文


鎌田 『三教指帰』は世界最高の卒業論文だと、私は言いたい。

―― 卒業論文なのですか。

鎌田 だって大学を卒業していないですからね。中退でしょう。

―― なるほど。

鎌田 (それでは周囲の)みんなは納得しないのです。空海のおじは、親王(皇室の王子)の教育係のような役職を持っていた。そのように、官学で身を立てているおじが阿刀大足(あとのおおたり)という名で、空海への期待を象徴していました。

 だから、自分にとって漢文の大先生だったおじ、阿刀大足を納得させるために、「自分は仏道修行に邁進していくのだ」ということを宣言しなければならない。

 そのためには、おじさんも漢学者もびっくり仰天するほどの名文、説得力のある文章で示さなければならない。中途半端なものでは、「これでは駄目だ」とはねつけられる。だから、空海はおじを説得するために必死で書き上げたのだと私は思います。

 そこで、「なぜ儒教は駄目なのか」ということですが、三教を比べてみると、儒教が持っている世界のフレームワークはあまりに小さく、この世の原理にすぎない。でも、この世以外にも世界はあるだろう。あの世へいく前には仙人の世界がある。この世とは違う、この世離れした世界。けれど本当のところ、世界というものは迷いの中にある。どちらも迷いの世界であるのなら、真実の悟りの世界へはどうすれば至ることができるのか。


●立身出世を拒否して、諸行無常・諸法無我へ


鎌田 最初から儒教・道教・仏教の三教を否定しているわけではなく、三教の教えはみんな人々の疑いの心を取り除いてくれる知恵の教えだといっている。前のものを完全否定するのではなく、それぞれにいいところがあると。

 要するに、多様な中から選択するのだと。二者択一のような「あれか、これか」ではない。「あれもいいけれど、こちらのほうがよりいいよ」と。「あれもこれも」ではあっても、「このほうがもっと深いですよ」というような示し方です。多様な人々の生活や行動様式にしたがって、仏教の「医王(仏)」でいえば、さまざまな機根に応じて行う処方箋のように随機説法でいってくれるわけです。

 儒教は道徳、道教が神仙の教え、仏教は「諸行無常」と「諸法無我」を説いて、真実の世界のあり方、自分というものは...

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