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“死の終りに冥し”…詩に託された『十住心論』の教えとは

空海と詩(4)詩で読む『秘蔵宝鑰』

鎌田東二
京都大学名誉教授
概要・テキスト
空海
出典:Wikimedia Commons
“悠々たり悠々たり”にはじまる空海『秘蔵宝鑰』序文の詩文。まことにリズミカルな連呼で、たたみかけていく文章である。このリフレインで彼岸へ連れ去られそうな魂は、選べる道の多様さと迷える世界での認識の誤りに出会い、“死に死に死に死んで死の終りに冥し”へと突入していく。これは絶望のようにも思えるが、本当はそこから反転して光の方に行けるのだという希望を示すのである。今回は『秘蔵宝鑰』の冒頭に掲げられた詩を深く鑑賞していく。(全7話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:09:23
収録日:2024/08/26
追加日:2024/11/23
キーワード:
≪全文≫

●“悠々たり悠々たり”と始まる『秘蔵宝鑰』の詩文


鎌田 (空海は)その(『秘蔵宝鑰』の)序文には詩を置きました。今(前回)お話ししたのは「十の意識がどうなっているか」という論理構成でしたが、それが詩文に表されています。

―― これは論証なのですね。

鎌田 そうです。だから、序論・本論・結論でいえば本論ですね。今(前回)私が説明したのは本論の部分で、その一つひとつに「偈(げ)」という詩文によって、分かりやすく説明している部分があるわけです。

 ですから、『秘密曼荼羅十住心論』という非常に固い哲学論文のような記述に比べれば、詩があることでずいぶん分かりやすくなっています。しかも、一番最初を詩(漢詩)で始めている。その漢詩を書き下しで読みます。

 『弘法大師全集』では全部漢文で出てきます。「悠悠たり」という言葉で始まります。それを、ちくま学芸文庫の『空海コレクション1』(宮坂宥勝監修)の『秘蔵宝鑰』の言葉を取ると、このようになります。

 「悠々たり悠々たり太(はなは)だ悠々たり 内外(ないげ)のけんしょう(※)千万の軸あり
 杳々(ようよう)たり杳々たり甚だ杳々たり 道をいい道をいうに百種の道あり
 書死(た)へ諷死(ふうた)へなましかば本何(もといかん)がなさん
 知らじ知らじ吾れも知らじ

 思い思い思い思うとも聖(しょう)も心(し)ることなけん
 牛頭草を嘗めて病者を悲しみ 断し(※)車を機て迷方を愍(あわれ)む
 三界の狂人は狂せることを知らず 四生の盲者は盲なることを識(さと)らず
 生れ生れ生れ生れて生(しょう)の始めに暗く 死に死に死に死んで死の終りに冥(くら)し」
 ※漢字はスライド参照
 
鎌田 いかがですか。

―― 非常にリズミカルに、たたみかけていく文章ですね。

鎌田 たたみかけてきますよね。「悠々たり悠々たり」は(現代だと)“リンダリンダ、リンダリンダ……”みたいな、ね。

―― その連呼に近いところがありますね。

鎌田 それで、感覚が分かるでしょう。“悠々たり悠々たり、太(はなは)だ悠々たり”なんてイメージが。

―― そうですね、本当に悠々たる感じが。

鎌田 まあ“リンダリンダ”ですよ。連呼やシュプレヒコールみたいなもの。それをバーッとやるので、インパクト満点です。これを詠んだ淳和天皇は、やはり...
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