●『法華経』の原題と翻訳
―― 最初のほうで先生もおっしゃった「山川草木悉有仏性」という言葉があります。「全てのものが悉く仏性を持っている」という話ですが、(『法華経』は)ある意味で、それと表裏をなすようなことになるわけですか。
鎌田 そうですね。それを究極の形にすると、「あらゆるものが仏である。全てが仏だ」ということになります。「山川草木…」というのは梅原猛さんによる言い方(言い換え)で、本覚思想(天台宗を中心として広まった「人間は生まれながらに仏性を備えている」という思想)として伝統的に「草木国土悉皆成仏」という言い方で示されてきました。それ自体とつながってきます。
『法華経』は「サッダルマ・プンダリーカ・スートラ」といって、宮沢賢治(の作品)にはこういう言葉がよく出てきます。「サッダルマ・プンダリーカ・スートラ」というのは、「正しい法の、白蓮の」。白い蓮は泥の中で咲くでしょう。だから、苦悩の中で咲く。つまり、苦しみの中に悟り、智慧がある。正しい、不思議な、優れた「サッダルマ(法、真理)・プンダリーカ(清浄な白い蓮花)・スートラ(縦糸、経典)」。
(『法華経』という)翻訳は鳩摩羅什によるもので、全8巻28品の岩波文庫の元になっているのは鳩摩羅什訳本です。私が持っているのは、それを元にした口語訳も付いて、サンスクリットの口語訳も付けてくれた岩波文庫で、坂本幸男・岩本裕訳註です。これを私は今回使っていて、先ほども読みました。最近では植木雅俊さんの訳が出ています。
●1劫=ブラフマンの1日=43億2000万年
鎌田 『法華経』の中では、長い長い時間のことを「カルパ(劫)」という言い方で表します。『法華経』の「化城喩品」、岩波文庫でいえば中巻の第3「化城喩品」第7に、三千大千世界の全てを粉にして、一粒ずつ千の国土に捨てていく(話があります)。捨て始めて捨て終わるまでにどれだけの時間がかかるか。全ての土地を粉にして、その一粒を「一劫」として数えたとき、(これは時間のたとえですが)三千世界という長い長い時間の一劫がブラフマンの1日といわれる。
インド人が数学の天才といわれるのは、0(ゼロ)(を発見したこと)も含めての話ですが、(彼らが考えた)ブラフマンの1日は、43億2000万年です。だか...