山上憶良「好去好来の歌」を読む
この講義シリーズの第1話
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
神様か仏様か?…和魂漢才・和魂洋才の融通無碍さと得意技
山上憶良「好去好来の歌」を読む(3)神と仏の棲み分けと「和魂漢才」
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授(特別専任)/奈良大学 名誉教授)
山上憶良は、遣唐使の旅立ちに送る歌の中で神と仏の棲み分けを示していた。神仏が時に一つになり、時に分かれ、棲み分けてきた融通無碍さは、日本が島国だから生まれた方法である。菅原道真は、受容したものを工夫して使うことを「和魂漢才」と呼んだが、その精神は明治維新以降、「和魂洋才」へとつながっていくのである。(全4話中第3話)
時間:10分12秒
収録日:2024年4月2日
追加日:2024年6月2日
≪全文≫

●人が神を選ぶか、神が人を選ぶか


 そうすると、(遣唐使の一行が)日本というものを背負っているときには、日本の神でないといけない。そして、グローバルなものを背負っているときには、仏様でなければいけないということになるわけです。

 この棲み分けはどうなっているのか。実際、「結婚式はキリスト教の教会で、お葬式は仏教で。受験の祈願は天神様に行きましょう」という多神教においては、人のほうが神様を選ぶわけです。「このことについては、この神様が頑張ってね。こちらについては、そちらの神様が頑張ってね」という具合です。

 しかし一神教の場合は、「あなたはこれを信じますか、これを守りますか」といって神様が人を選ぶわけです。人が神様を選ぶのか、神様が人を選ぶのかというのは、全く違うことです。

 これが、山上憶良という、あれだけ儒教に通じ、あれだけ仏教教典を読み込み、あれだけ中国のことをよく知っている人物にして、遣唐使の旅立ちだけは神様でないと具合が悪かったというところに通じます。神と仏の棲み分けですね。

 日本の宗教史では、神様がやるべきことと仏様がやるべきことを棲み分けていくのが一つの形です。もう一つの形は、「神様も仏様も、実は一つです。一つになろう」という本地垂迹です。さらには、「やはり、これは分けなければいけない」というときもあります。ですから、棲み分けをしたり、一緒だと考えたり、あるときには分けようとしたり、また一緒になろうとしたりするといういろいろなことがあるわけです。


●島国だからこその融通無碍さと得意・不得意


 こういう融通無碍さというのは、何に基づいているのか。それはやはり日本が島国であるということです。つまり、外国からいろいろなものを受け入れたとしても、それらを自分たちで運用して、自分たちで育てていかないといけない。だから、これは受け入れた側の人間の知恵です。

 「これからはパンの時代だ。パンを食べなければ駄目だ」ということになったとき、そうは言いつつ、「どうやって食べたらいいだろうか」と悩む。「ああ、そういえば、おまんじゅうがある。中にあんこを入れようではないか。そして、あんこの入っているパンだと分かるように、上に少しゴマでもふりかけようか」。そのようにして、あんパンができたりするわけです。

 「いや、これからは洋食の時代だ。ジャガイモ...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
和歌のレトリック~技法と鑑賞(1)枕詞:その1
ぬばたまの、あしひきの……不思議な「枕詞」の意味は?
渡部泰明
百人一首の和歌(1)謎の多い『百人一首』
『百人一首』の歌が選ばれた理由とは?今も残る3つの謎
渡部泰明
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か
ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景
池上英洋
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
音楽はなぜ時代を映し出すのか?…音楽と人の歴史の関係
片山杜秀
日本画を知る~その技法と見方(1)写実・写意・写生
日本画で大切な「写意」「写生」の深い意味とは?
川嶋渉

人気の講義ランキングTOP10
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
平和の追求~哲学者たちの構想(5)カント『永遠平和のために』
カント『永遠平和のために』…国連やEUの起源とされる理由
川出良枝
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境に対峙する哲学カフェ…西洋哲学×東洋哲学で問う矛盾
津崎良典
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(1)史実としての豊臣兄弟と秀長の役割
豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割
黒田基樹
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
組織心理学とは何か~『武器としての組織心理学』と概論
なぜ組織に「心理学」が必要か?多様化と個の時代の処方箋
山浦一保
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(5)『秘蔵宝鑰』が示す非二元論的世界
雄大で雄渾な生命の全体像…その中で点滅する個々の生命
鎌田東二
渡部昇一の「わが体験的キリスト教論」(1)古き良きキリスト教社会
古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著
渡部玄一
プロジェクトマネジメントの基本(1)国際標準とプロジェクトの定義
プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性
大塚有希子