『銀河鉄道の夜』の著者・宮沢賢治にとってもそうだが、『法華経』の重要なテーマは「遍歴」であると考えられる。遍歴や修行の旅は、仏教的には方便を用いて悟りに向かうことだが、『大日経』住心品には悟りと大悲こそが究境として方便を生むという説もある。さらに『法華経』では、方便を駆使するためにアバター(化身)が大活躍する。アバターはインドの土着といえる思想だが、現代においても、あたかも。(全10話中第5話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
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●宮沢賢治の『法華経』体験と「遍歴」
―― 以前、鎌田先生には宮沢賢治の講義もお願いしましたけれど(宮沢賢治『銀河鉄道の夜』を読む・全6話)、宮沢賢治のお家は元々浄土宗でしたかね。
鎌田 浄土真宗の、確か大谷派だったと思います。
―― (彼は)『法華経』を読んだときに、あまりのイメージに圧倒されて、特に「如来寿量品」に圧倒されて法華経に変わったという話もありました。やはり、それに匹敵するようなイメージやスペクタクルが…。
鎌田 宮沢賢治の『法華経』体験は18歳ぐらいでした。彼は中学生の頃、15~16歳ぐらいから病気でした。肺を患っていたというので、肺尖カタルのような状態だったのでしょうか。盛岡の病院にいたときに島地大等が訳した『妙法蓮華経』を通して法華経に出会い、その生命思想に非常に感動したということがありました。その『法華経』体験が彼の『銀河鉄道の夜』までつながっているわけで、ある面で非常に似ていると思います。
ただ、宮沢賢治の中では『銀河鉄道の夜』にはハレー彗星のイメージがあると、私は思っています。私の中では(法華経は)なんといっても『2001年宇宙の旅』なので、ハリウッド映画に惹かれた私と、宮沢賢治のもう少しオーソドックスな見方では(少し違いがある)。彼はのちに日蓮主義の国柱会に入っていきますので、より法華経に則したものとの違いは少しあるかもしれませんね。
―― なるほど。
鎌田 でも、『銀河鉄道の夜』を介すれば、共通点もかなりあります。彼らは遍歴していくではないですか。その遍歴の一つを木星の探索だと考えれば、『銀河鉄道の夜』はボーマン船長の(旅を含むもの)になります。
―― やはり、キーワードは「遍歴」ですか。
鎌田 キーワードは遍歴ですね。『華厳経』も遍歴です。(これは善財童子が)53の善知識(グル)たちをめぐっていく物語なので、どちらも遍歴です。旅、遍歴、修行の旅というのは、仏教でも(他の)宗教においても極めて重要なプロセスを成しますよね。
●「遍歴」と「方便」という究竟
鎌田 遍歴(旅)は、あらゆる英雄物語や、あらゆるイニシエーション(通過儀礼)に不可欠な要素です。ある知識や力を得るためのプロセスとしては、遍歴、旅、冒険というものが欠かせない。そこで出会う問題を解決して、より平和や幸福や、あるいは力を得たり発揮したりするということになりま...