宮沢賢治『銀河鉄道の夜』を読む
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カムパネルラは消えたのか…ブルカニロ博士との対話の意味
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』を読む(3)ブルカニロ博士と法華経の世界観
鎌田東二(京都大学名誉教授)
「永久の未完成これ完成である」という言葉通り、宮沢賢治は自作の推敲を繰り返した。『銀河鉄道の夜』では4次にわたる大幅な加筆訂正削除がなされている。決定稿となった第4次稿で消え去った謎の人物に、「ブルカニロ博士」がいる。「セロのような声」のそのひとの登場するシーンを再読することで、賢治が込めた法華経の思想、その世界観への理解を深めたい。(全6話中第3話:2022年7月28日開催ウェビナー〈宮沢賢治『銀河鉄道の夜』を読む〉より)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:15分52秒
収録日:2022年7月28日
追加日:2023年3月20日
≪全文≫

●カットされた謎の人物「ブルカニロ博士」の登場シーン


―― 「ほんとうの幸い」とは何かということを考えていく上で、一つのヒントになるのが「ブルカニロ博士」という人ですね。

鎌田 そうですね、謎の人物ですね。「セロのような声」だと。

―― これは、先ほど先生がいわれた天沢退二郎氏らの校訂ではカットされてしまった部分になります。

鎌田 最終形ではね。

―― 最終形ではカットされたと考えられている箇所になります。ただ、今でも流通している岩波文庫版や角川文庫版などの本では、この部分が残っていたりします。

鎌田 例えば、1951年版など1950~60年代に出た本では、ブルカニロ博士が出てくる文庫本などがあるということですね。

―― そうです。

鎌田 それで読んでいる方もいらっしゃるはずですね。

―― ええ。ただ、まったくそういうところがあることを知らないという方も多いと思います。私などは最初に「セロのような声」が出てくるバージョンで読んだものですから、どうしてもそれがないとさみしいですね。

鎌田 確かに、あのセロの声というのは印象深いですね。

―― 印象深い。それに、ここは禅問答のように謎めいた問いかけのシーンになります。これがもともとはどういうシーンのあたりに入っていたのかというと、まさにカムパネルラとの最後のシーンのあたりです。

 みんながいなくなってしまい、「僕たち、どこまでもどこまでもいっしょに行こう」と言った後で、ジョバンニがカムパネルラに「けれどもほんとうのさいわいはいったいなんだろう」と訊き、カムパネルラは「僕わからない」と答える。そういう問答をしている間にカムパネルラが急にいなくなって、ジョバンニは慟哭する。そうすると、次のシーンに来るわけです。これが、ブルカニロ博士または「セロのような声」の「そのひと」というところになってきます。

 原稿のほうでいうと、見づらい字ではあるのですが、真ん中あたりに「卍」があります。この前のところはジョバンニが泣くシーンで、ここに「挿入をしてください」という印にしているのが「卍」です。挿入する原稿として宮沢賢治が書いたのが、次のものになります。

 ここは右上に「卍」があり、これを入れる...

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