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無耳法師となった明恵の過激、秘めた切なる想いとは

【入門】日本仏教の名僧・名著~明恵編(2)無耳法師の「賛」と和歌

賴住光子
駒澤大学仏教学部 教授
概要・テキスト
明恵念持 仏眼仏母 (高山寺蔵)
出典:Wikimedia Commons
明恵は両親を早く亡くして仏門に入ったことから、釈尊を父と崇め、「仏眼仏母」の仏画を母と慕い続けた。また、自らの美貌が修行の妨げになることを気遣い、右耳を削ぎ落として「無耳法師」と名乗ったという過激な経歴の持ち主でもある。彼の残した和歌からは、難解とされる華厳宗の「一即一切、一切即一」の境地が感じられる。(全2話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10:41
収録日:2020/09/30
追加日:2021/10/29
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≪全文≫

●母と拝んだ仏に書きつけた「賛」


―― (明恵の)次の文章ですが、これは「明恵念持仏(仏眼仏母)」に明恵自身が書き付けた賛ということですが、これはどういう文章になるのでしょうか。

賴住  はい、明恵は自分の父と母を早くに亡くした人でした。それで、なくなった父母の代わりに釈尊を自分の父親であると考えていました。さらに、この「仏眼仏母」如来はよく密教などで信仰されていますが、この仏さまを自分の母親だと考えておりました。

 この「仏眼仏母」如来は今、高山寺に残されている、2メートル足らずの非常に美しい仏の図像です。白い蓮華座に座っていますが、仏の体自身も真っ白で、また着ている衣も真っ白な、とても優美な美しい仏です。この仏を明恵は自分の母親と考えて、この仏を礼拝したり、いろいろな儀礼をしたりしていました。その念持仏の絵に明恵が自分の心を書き付けた文章になります。

―― なるほど。先生が美しいとおっしゃった仏さまのところに書いたということになるわけですね。

賴住 そうですね。はい。

―― では、読ませていただきます。

「モロトモニ アハレトヲホセ ミ仏ヨ キミヨリホカニ シル人モナシ 無耳法師母御前也、哀愍我(我を哀れみたまえ)、生々世々 不暫離(暫くも離れず)、南無母御前 南無母御前」

賴住 これは、明恵が自分の信仰していた「仏眼仏母」如来の絵の右上のところに書いた「賛」なのですけれども、「モロトモニ アハレトヲホセ」が、「一緒に愛おしいと思ってください」ということです。「モロトモニ」というのは、明恵がこの「仏眼仏母」如来を愛おしいと思っているのと同じように、「仏眼仏母」如来も私のことを思われているという意味になります。

 この後に「ミ仏ヨ」と呼びかけて、「御仏より他に自分の気持ちを知ってくれる人はない。御仏だけが私の気持ちを知ってくださっている」と言っています。その後に「無耳法師」と言われていますが、これは自分のことになります。


●明恵が「無耳法師」を名乗った理由


賴住 「無耳法師」とはどういうことでしょうか。実は明恵は大変に美しい姿かたちをしていたため、たくさんのファンが回りを取り囲むほどだったそうです。そのため、修行さえ妨げられてしまうようなことがどうもあっ...
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