百人一首の和歌
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藤原定家が生涯の一首として取り上げた理由
百人一首の和歌(5) 藤原定家
芸術と文化
渡部泰明(東京大学名誉教授/国文学研究資料館館長)
東京大学大学院人文社会系研究科教授の渡部泰明氏による百人一首に関するシリーズレクチャー。最終話では百人一首の選者とされる藤原定家が自身の歌として選んだ一首を取り上げる。定家自選というだけあって、その歌は多くの示唆に富んでいる。興味深いのは『万葉集』『源氏物語』といった大著との関係だ。(全5話中第5話)
時間:20分04秒
収録日:2018年4月2日
追加日:2018年6月30日
カテゴリー:
≪全文≫

●さまざまな読み方ができる定家自身の歌


 それでは最後の歌人として、藤原定家その人を取り上げたいと思います。

 巨匠・藤原定家が『百人一首』を選んだとして、自分の歌としては何を選んだのでしょうか。これはわれわれの大変興味深いところです。彼が選んだ自分の一首はこの歌でした。

 来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ

 定家は生涯2つの勅撰和歌集に関わっています。最初はもちろん『新古今和歌集』ですが、ただこれは5人の歌人で選んだものです。その次の『新勅撰和歌集』は、定家1人で選んだ勅撰集ということで、生涯2つの勅撰集の撰者となったわけです。この歌はその『新勅撰和歌集』の中に入っている歌で、『新古今和歌集』ができた後にできた歌です。

 これに関しても、定家といえばやはり『新古今和歌集』の方がはるかに有名なので、「『新古今和歌集』の中にたくさんいい歌あるのに、なぜこの歌なのかな」という意見もないではありません。ただこの歌は、さすが定家が自分で選んだだけあって、またいろいろな読みができるだろうと思います。

 そのいろいろな読みの1つとして、私がご提案したい読み方があるので、それを今日はお話しさせていただきたいと思います。


●読み解きの重要な鍵となる「藻塩を焼く」


 まずこの歌、訳がなかなか難しいので、確認しておきましょう。

 「来ぬ人をまつ」で、まずいったんひとまとまりになります。そして「まつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の」が、またひとまとまりになっています。ですから、上のところの「まつ」が重なっているのです。そして「まつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の」が、「こがれ」にかかっていきます。「まつほの浦」は地名で「松帆の浦の夕暮れどきに、夕なぎのもとで焼く藻塩の火のように私は待ち焦がれている」ということで、ちょうど「まつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の」が、サンドイッチされているといったらいいでしょうか。随分中身の膨らんだサンドイッチですけれども、言いたいことは、「来ない人を待って身を焦がしている」という、ただそこだけなのです。

 風景としての「まつほの浦」(松帆の浦)ですが、それは、淡路島の北端のところにある地名です。それが夕なぎどきなのです。夕方だから海面は波がない。そこで藻塩を焼いている。「藻塩を焼く」とは要するに塩作りです。

 まず海藻...

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