和歌のレトリック~技法と鑑賞
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
藤原定家が完成した「本歌取り」は古歌への恋
和歌のレトリック~技法と鑑賞(6)本歌取り:その1
芸術と文化
渡部泰明(東京大学名誉教授/国文学研究資料館館長)
和歌のレトリックについて解説するシリーズ講義。6つ目のレトリックは「本歌取り」だ。この技巧を完成したのは藤原定家であるため、百人一首には本歌取りの歌が多く収められている。では本歌取りとは何か。皆の共有財産となっている古歌を意識的に取り入れ、新しい歌として詠むレトリックだと、渡部泰明氏は語る。(全12話中第11話)
時間:7分56秒
収録日:2019年6月17日
追加日:2020年2月11日
カテゴリー:
≪全文≫

●古歌を意識的に取り入れ新しさのある歌を詠む本歌取り


 古典和歌における「本歌取り」についてお話しします。例としては百人一首を例にご説明していきたいと思います。

 本歌取りを完成したのは藤原定家だといわれています。その藤原定家が選んだ百人一首ですから、百人一首の中には本歌取りの歌がかなりたくさん収められています。そこで、百人一首に注目したということがあります。その本歌取りですが、これがなかなか難しい技巧で一口で「こういうもの」とちょっと言いにくいところがあるのですが、百人一首の中でということで、お話ししていければと思います。

 一般的にいえば本歌取りというのは、古歌(古い歌)の言葉を意識的に取り入れて新しい歌を詠む技巧だと考えればいいと思います。古い歌でないといけないのです。新しい歌から取ったらこれは泥棒になってしまいますので。実は「泥棒だ」と言われることがあったのです。鎌倉時代のことで、「この言葉、おまえ盗んだだろう」というように言われることもあったようです。

 ただ、現代でいえば50年たつと著作権が切れるというようなもので、古い歌であれば皆知っているのだから(むしろ皆が知っている古い歌でなければいけませんが)いわば著作権がないに等しいわけです。そういうものであれば共有財産となるので、だからこそ使えるのだ、ということを前提にして、新しい歌をつくる。そういう技法なのです。つくった歌が新しくないとそれはまた模倣になってしまいますので、新しさが大事なのです。


●恋の涙に袖を濡らした殷富門院大輔と源重之の歌


 例えば、どういう歌かということで、殷富門院大輔(いんぷもんいんのたいふ)の歌を取り上げます。定家よりはちょっと先輩にあたる女房歌人です。

「見せばやな
雄島の海人の 袖だにも
濡れにぞ濡れし 色は変はらず」

 「見せたいものだ。雄島の海人の袖でさえも濡れに濡れたけれども色は変わらなかった。それなのに、私の袖はこんなに色が変わっているではないか」という歌です。色が変わっているとは一体何だろう、ということになりますが、これは要するに紅色なのですね。悲しいともちろん涙が出ますが、もっと悲しいとその涙が血の涙になるわけです。そうすると袖が紅に染まる、紅の涙、紅涙と言ったりするわけですが。これは本当に血の涙を想像するとちょっとグロテスクなことになって...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
深掘りシェイクスピア~謎の生涯と名作秘話(1)シェイクスピアの謎
シェイクスピアの謎…なぜ田舎者の青年が世界的劇作家に?
河合祥一郎
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫
ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か
ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景
池上英洋
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
岡倉天心『茶の本』と日本文化(1)岡倉天心の生涯
岡倉天心の『茶の本』…世界に向けた日本伝統文化の発信
大久保喬樹

人気の講義ランキングTOP10
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
片山杜秀
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(2)外交と軍事のバランス
外政家・原敬とは違う…職業外交官・幣原喜重郎の評価は?
小原雅博
数学と音楽の不思議な関係(3)音と三角関数とフーリエ級数
フーリエ解析、三角関数…数学を使えば音の原材料が分かる
中島さち子
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(3)共同保育を現代社会に取り戻す
狩猟採集生活の知恵を生かせ!共同保育実現に向けた動き
長谷川眞理子
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏
『還暦からの底力』に学ぶ人生100年時代の生き方(1)定年制は要らない
日本の定年制はおかしい…ガラパゴス的で不幸を招く制度
出口治明
運と歴史~人は運で決まるか(1)ソクラテスが見舞われた「運」
歴史における「運」とは?ソクラテスの「運」から考える
山内昌之
50代からの親の介護~その課題と準備(1)突然やってくる介護の問題
「親の介護」の問題…優しさだけでは続かない
太田差惠子
第2の人生を明るくする労働市場改革(1)日本の労働市場が抱える問題
シニアの雇用、正規・非正規の格差…日本の労働市場の問題
宮本弘曉