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征夷大将軍も勅撰和歌集の撰者も「おみくじ」で選ぶ?

おみくじと和歌の歴史(2)おみくじのルーツ

平野多恵
成蹊大学文学部日本文学科教授
情報・テキスト
『おみくじの歴史 神仏のお告げはなぜ詩歌なのか(歴史文化ライブラリー583)』(平野多恵著、吉川弘文館)
平野多恵氏提供(吉川弘文館より)
おみくじには3つのルーツがある。1つ目が「和歌みくじ」、2つ目が「神仏の前で引く自作のくじ」、3つ目が「漢詩みくじ」だが、それぞれどのようなものなのか。また、歴史のなかでは、くじ引きで征夷大将軍が決まった「くじ引き将軍」の事例や、勅撰和歌集の撰者をおみくじで決定した例などもある。そのような実話も交えながら、和歌や漢詩を使ったかつてのおみくじについて振り返り、おみくじの役割について解説する。(全5話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:06:49
収録日:2023/11/10
追加日:2023/12/27
キーワード:
≪全文≫

●おみくじのルーツにある三つの形式


―― それでは先生、続きまして、まさに「おみくじの歴史」について伺いたいと思います。

 歴史の教科書などでも、それこそ大昔には「太占(ふとまに)」とか「亀卜(きぼく)」といって、動物の骨を焼いたり、亀の甲羅を焼いたりしましたが、それは割れた跡で占うわけですか。どういう占いになるのですか。

平野 そうですね。ひび割れ方によって吉凶を占うのですけれども、実際どうなっていたらどうなのかというのは、実は本当の昔の資料というのはないのです。ただ、江戸時代ぐらいになると、亀卜には多少は「これが吉だ」というような資料があるのですけれども、いずれにせよ、その現れた形、(つまり)神様に祈念して、甲羅や骨を焼いて出てきた形が神意の現れだと考えて、そこから吉凶を解釈するというものだったのです。

―― そのような太占や亀卜というものがもともと太古からあったという中で、それがだんだん現代のおみくじに至るには、変化していく中で3つのルーツがあるとご本の中でお書きになっていました。その1つ目が「和歌みくじ」、2つ目が「神仏の前で引く自作のくじ」、3つ目が「漢詩のみくじ」で、だいたいこの3つがルーツなのだということでございますが、この3つは、それぞれ概略するとどういうことになるのでしょうか。

平野 まず「和歌みくじ」のほうは、あとで詳しくお話ししますけれども、五・七・五・七・七、三十一文字の和歌を詠んだのは、スサノヲノミコトという神様だと考えられていて、和歌の始発に神様がいたと信じられていたのです。平安時代くらいから、スサノヲノミコト以外も、いろいろな神様が和歌を詠んで、人間にお告げをするというようなことが行われるようになってきまして、それがおみくじの中に取り込まれていったというのが「和歌みくじ」のルーツです。

 それから、「漢詩みくじ」のほうですが、これは中国から入ってきた「漢詩みくじ」が江戸時代に爆発的に流行して、それが現代まで、先ほど見ていただいた浅草寺さんの「漢詩みくじ」のような形で今も使われています。

 それから、「神仏の前で引くおみくじ」ですが、現代で引くようなおみくじが定着する前は、実は1回ごとに、自分が何か悩んで決めかねることがあったときにそれを神仏の前で祈って、自分がやろうとしていることが吉なのか凶なのかということについて神様のご意志をうかがうということで、1回ごとに引くのがもともとのおみくじだったのです。

―― 今のように、ワッと引いて「大吉」で文章が書いてあるということではないということになるわけですね。

平野 そうですね。実際に、足利将軍の足利義教がくじ引きで決まったという「くじ引き将軍」が有名です。 それも、将軍の後継者が4人くらいいて決めかねるということで、神仏の前でその4人の名前を書いて、それで選ばれたのが足利義教だったということです。

 ということで、何でもいいから適当にくじで決めようということではなくて、決めかねるもの(があって、その)最後の最後、最終判断を神様、仏様にお聞きしようというのがおみくじの本来のあり方だったのです。


●勅撰和歌集の選者も…集団の気持ちを1つにするという役割


―― なるほど。他に歴史上、おみくじが活用された事例としてどのような例があるのでしょうか。

平野 例えば、戦国大名が戦の日取りですとか、あるいは攻める方角を決めたりというのもありました。あるいは、天皇の命令で作られる勅撰和歌集というものを決めるときに、その選者の候補者を選んだり。和歌集なので、例えば和歌の神様である今の住吉大社と玉津島神社で選者の候補者がそれでいいかどうかというのを吉か凶か、(おみくじを)引きました。そのときは、3回引いて吉が2回出たからいいとかそういう話になるのですけれども、それで神様の承認が得られたので、選者として適格であるとして選者が決められたり、ということもありますね。

―― やはり先ほど先生が強調されていらっしゃったように、ご神意(神様のご意志)を聞くということになるわけですね。

平野 そうです。

―― それが下りたから、従う周りの人たちも納得感が持てると。

平野 そうですね。いろいろな意見がある中で、その集団の気持ちを1つにしていくときに、おみくじというのは一定の役割を果たしたのでしょう。そのときに、そのコミュニティの人たちが信仰している神仏の前でおみくじを引くというところに、とても大きな意味があったと思います。
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