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和歌の6種の修辞(六義)とは?…漢詩と和歌の比較

『古今和歌集』仮名序を読む(4)6つのスタイル

渡部泰明
東京大学名誉教授/国文学研究資料館館長
情報・テキスト
「仮名序」では和歌の様式を6種に分け、それぞれの用例を挙げている。「そへ歌」は隠喩表現を用い、「かぞへ歌」は「物の名」の歌といわれるが、さまざまなものを並べあげる。「なずらへ歌」は縁語や掛詞を用い、「たとへ歌」もやはり比喩を用いる歌で、この2つは仮名序の中でも大事な位置を占めている。そして、それ以外の歌を指す「ただこと歌」とお祝いに送る「いはひ歌」をあわせて6種類になる。(全6話中第4話)
時間:13:09
収録日:2023/07/05
追加日:2023/11/29
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≪全文≫

●和歌には6種のスタイルがある


 それ(和歌の特徴)がはっきりするのは、次の「和歌の6種の修辞(六義)」について述べているところです。見ていただきたいと思います。

 「そもそも歌のさま六なり。唐の歌にもかくぞあるべき。

 その六種(むくさ)の一つにはそへ歌。大鶺鴒の帝をそへたてまつれる歌。

  難波津に咲くやこの花冬ごもり今は春べと咲くやこの花
 といへるなるべし。

 二つにはかぞへ歌。

  さく花に思ひつくみのあぢきなさ身にいたつきのいるもしらずて
 といへるなるべし。

 三つにはなずらへ歌。

  君にけさ朝(あした)の霜のおきて去なば恋しきごとに消えやわたらむ
 といへるなるべし。

 四つにはたとへ歌。

  わが恋はよむとも尽きじありそ海の浜の真砂はよみつくすとも
 といへるなるべし。

 五つにはただこと歌。

  いつはりのなき世なりせばいかばかり人の言の葉うれしからまし
 といへるなるべし。

 六つにはいはひ歌。

  この殿はむべも富みけりさき草のみつばよつばに殿造りせり
 といへるなるべし。」

 6種類の歌の「スタイル」といってみましょうか。ここでは、歌の様式が6つに分類されているわけです。


●隠喩で表現する「そへ歌」


 その6種類の歌のスタイルの第一に挙げられているのが「そへ歌」です。そして、この「そへ歌」こそ、先ほど歌の父母のようなものと示された「大鶺鴒の帝の難波津にて皇子ときこえける時云々」とされていた王仁という人が詠んだ歌が挙げられているわけですね。

 ですから、これは歌の歴史を述べている途中で、その歴史に関わってその歌のスタイルを説明し、注釈していると考えられますし、そういう流れで見るべきだろうと思います。

 それからもう一つ。今、「注釈」ということを申しました。実はこの『古今和歌集』の「仮名序」にはすでに注釈がくっついています。その注釈は小さい字で、平安時代に書かれた注だと思いますので、これも「仮名序」の本文に含めて考える人もいるぐらいです。

 今回は、あくまで905(延喜5)年に成立した段階での「仮名序」の考え方を中心に考えたいので、平安時代にできた注の部分は全て除いてあります。「あれ?自分が見ている『古今和歌集』の『仮名序』と違うぞ」とお思いになった方は、そういう理由があります。

 さて、話を戻します。ここでいわれている「そへ歌」。

 「そへる」というのは、「たとえる」という意味によく使われる言葉ですが、この場合は漢詩でいう「風」。風という字を書いたり、あるいは言偏に風の「諷」という字を書くこともあります。漢詩でいえば「風(諷)」というものを表す種類だろうと思います。要するに隠喩の歌、はっきりとは示さないで、それとなく表す歌です。


●物の名のさまざまなものを並べあげる「かぞへ歌」


 そして、二つには「かぞへ歌」。「かぞへ歌」は漢詩でいう「賦」に当たります。さまざまなものを並べ上げていくスタイルなのですが、この場合は物の名のさまざまなものを読み込んでいる歌と考えられると思います。

 その例としては「さく花に思ひつくみのあぢきなさ身にいたつきのいるもしらずて」。咲く花に夢中になっているとは困ったものだ。我が身を病が冒しているとも知らずに、という歌です。

 この「咲く花に思ひつくみ」の「つくみ」に「つぐみ」、鳥のツグミがいます。それから「あぢ」、これはアジ(ヂ)ガモの「アヂ」です。それから「いたつき」というのは、軽量の矢のことを指すかと考えられます。

 あまり頻繁に使う言葉ではありませんが、鳥の話題かと思ったら矢の話になる。でも、矢と鳥は、狩りをする点からいえば関係のある言葉になります。

 そして、その「矢」のさらに縁語で「射る」。「身にいたつきのいる」は、表面上の意味は「入る」という意味の「いる」ですが、そこに弓矢を「射る」という言葉がかけられて、射的の「射」という字の言葉を隠していると考えられるわけです。

 このようにさまざまな、この場合、関係ないような言葉を次々と読み込んでいる。これを「物の名」の歌と一般にいいますが、(「かぞへ歌」は)これを表しているだろうと思います。漢詩でいえば「比」に当たりますが、比とはかなり内容が違って、日本風になっています。『古今和歌集』の独特な解釈ないしスタイルの捉え方です。


●仮名序の中でも大事な位置を占める「なずらへ歌」と「たとへ歌」


 (三番目に)戻ります。

 「君にけさ朝の霜のおきて去なば恋しきごとに消えやわたらむ」といへるなるべし。これが「なずらへ歌」で、縁語、掛詞を用いた歌と考えたいと思います。

 「君にけさ」の歌でいうと、「霜」という言葉に関係づけて詠んでいる。これは男が女のもとから朝帰るとき...
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