●和歌には6種のスタイルがある
それ(和歌の特徴)がはっきりするのは、次の「和歌の6種の修辞(六義)」について述べているところです。見ていただきたいと思います。
「そもそも歌のさま六なり。唐の歌にもかくぞあるべき。
その六種(むくさ)の一つにはそへ歌。大鶺鴒の帝をそへたてまつれる歌。
難波津に咲くやこの花冬ごもり今は春べと咲くやこの花
といへるなるべし。
二つにはかぞへ歌。
さく花に思ひつくみのあぢきなさ身にいたつきのいるもしらずて
といへるなるべし。
三つにはなずらへ歌。
君にけさ朝(あした)の霜のおきて去なば恋しきごとに消えやわたらむ
といへるなるべし。
四つにはたとへ歌。
わが恋はよむとも尽きじありそ海の浜の真砂はよみつくすとも
といへるなるべし。
五つにはただこと歌。
いつはりのなき世なりせばいかばかり人の言の葉うれしからまし
といへるなるべし。
六つにはいはひ歌。
この殿はむべも富みけりさき草のみつばよつばに殿造りせり
といへるなるべし。」
6種類の歌の「スタイル」といってみましょうか。ここでは、歌の様式が6つに分類されているわけです。
●隠喩で表現する「そへ歌」
その6種類の歌のスタイルの第一に挙げられているのが「そへ歌」です。そして、この「そへ歌」こそ、先ほど歌の父母のようなものと示された「大鶺鴒の帝の難波津にて皇子ときこえける時云々」とされていた王仁という人が詠んだ歌が挙げられているわけですね。
ですから、これは歌の歴史を述べている途中で、その歴史に関わってその歌のスタイルを説明し、注釈していると考えられますし、そういう流れで見るべきだろうと思います。
それからもう一つ。今、「注釈」ということを申しました。実はこの『古今和歌集』の「仮名序」にはすでに注釈がくっついています。その注釈は小さい字で、平安時代に書かれた注だと思いますので、これも「仮名序」の本文に含めて考える人もいるぐらいです。
今回は、あくまで905(延喜5)年に成立した段階での「仮名序」の考え方を中心に考えたいので、平安時代にできた注の部分は全て除いてあります。「あれ?自分が見ている『古今和歌集』の『仮名序』と違うぞ」とお思いになった方は、そういう理由があります。
さて、話を戻しま...