『古今和歌集』仮名序を読む
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なぜ仮名序で六歌仙を批評?ポイントは「さま」と社会性
『古今和歌集』仮名序を読む(6)六歌仙の先輩たち
芸術と文化
渡部泰明(東京大学名誉教授/国文学研究資料館館長)
古来、謎とされてきたのが「仮名序」で登場する六歌仙への批判めいた言葉である。六歌仙とは、『古今和歌集』の撰者から数えて50~80年ほど先輩にあたる、僧正遍昭、在原業平、文屋康秀、喜撰法師、小野小町、大伴黒主の6人である。だが、撰者たちは自分たちの正統性と革新性を主張するため、直接の先輩たちを乗り越えるという文脈で、あえて否定的に語ったのではないか。そう考えると、筋が通る。では、それぞれを、どのように評したのか。具体的に解説しながら本シリーズ講義を締めくくる。(全6話中第6話)
時間:13分42秒
収録日:2023年7月5日
追加日:2023年12月13日
カテゴリー:
≪全文≫

●なぜ「仮名序」に「六歌仙」への批判めいた言葉が?


 「六歌仙の先輩たち

 そのほかにちかき世にその名聞こえたる人は、すなはち僧正遍昭は、歌のさまは得たれどもまことすくなし。たとへば絵にかける女(をうな)を見ていたづらに心をうごかすがごとし。

 在原業平は、その心あまりて言葉足らず。しぼめる花の色なくて、匂ひ残れるがごとし。

 文屋康秀は、言葉はたくみにてそのさま身に負はず。いはばあき人のよき衣(きぬ)着たらむがごとし。

 宇治山の僧喜撰は、言葉かすかにしてはじめをはりたしかならず。いはば秋の月を見るに、暁の雲にあへるがごとし。よめる歌多く聞こえねば、かれこれを通はしてよく知らず。

 小野小町は、いにしへの衣通姫(そとほりひめ)の流なり。あはれなるやうにて強からず。いはばよき女のなやめる所あるに似たり。強からぬは女の歌なればなるべし。

 大伴黒主はそのさまいやし。いはば薪負へる山びとの、花の陰にやすめるがごとし。

 このほかの人々その名きこゆる、野辺におふるかづらの這ひひろごり、林にしげき木の葉のごとくに多かれど、歌とのみ思ひてそのさましらぬなるべし」

 ここで6人の先輩たち、『古今和歌集』の撰者からすれば数十年、ちょうど50~80年ぐらい先輩に当たる人たちを紹介しています。後に「六歌仙」と呼ばれるようになりますが、「歌仙」というのは当然優れた歌人という意味ですから、これも褒め言葉のはずなのですが、意外にけなしています。

 ここが昔から謎で、なぜこんなにけなしているのだろうといわれることが多いのです。これは、やはり自分たちのやろうとしていることが何か革新的なものなのだ、イノベーションを起こすものだといいたいときにしばしばある言い方です。直接の先輩たちを乗り越えるという文脈で語る、つまり否定的に語るということです。

 けれどもそれは、おおもとの始めた人たち、始原つまり創設者(会社でいえば創設者に当たる人たち)のやり方を正しく継承していると(主張)するためです。つまり、先輩たちはそういうものを継承していなかった。自分たちこそ継承するものだ。そのように論理立てることによって、自分たちの正当性と新しさを両方成立させようとしている。このような論法は(今も)しばしば用いられますが、そうした論法のいわば先駆けです。

 ですから、どうしても悪口めいた言...

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