『古今和歌集』仮名序を読む
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やまとうたは人の心を種として…「託す」表現の神秘的な力
『古今和歌集』仮名序を読む(2)和歌とは何か
渡部泰明(東京大学名誉教授/国文学研究資料館館長)
「仮名序」の冒頭では、和歌の機序とその機能が説かれる。「人の心を種」として「多くの言葉」として茂ってきたのが歌であり、歌は「天地を動かす」力を持っているというのだ。こうした内容の表現に縁語や掛詞の技法をふんだんに用いることで、仮名序は『古今和歌集』の真髄を表している。(全6話中第2話)
時間:10分27秒
収録日:2023年7月5日
追加日:2023年11月15日
カテゴリー:
≪全文≫

●人の心を種としてよろづの言の葉とぞ――植物の比喩で生まれる生命感


 まず、読みます。

 「やまとうたは、人の心を種としてよろづの言の葉とぞなれりける。世の中にある人、こと・わざしげきものなれば、心に思ふことを見るもの聞くものにつけて言ひ出せるなり。花に鳴く鶯、水にすむかはづの声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける。力をも入れずして天地(あめつち)を動かし、目に見えぬ鬼神(おにがみ)をもあはれと思はせ、男女の仲をもやはらげ、猛き武士(もののふ)の心をもなぐさむるは歌なり」

 では、訳してみます。

 「和歌は人の心を種として、多くの言葉となったものである。この世に生きる人は関わり合う事柄がまことに多いので、心に思うことを、見るものや、聞くものに託して歌に詠むのである。花に鳴くウグイスや、水にすむカワズの声を聞くと、全て生命あるもので歌を詠まないものはない。力を入れないで天地を動かし、目に見えない心霊を感動させ、男女の仲を打ち解けさせ、荒々しい武士の心をなだめるのが歌というものである」

 これは冒頭の大変有名な部分です。その中でもさらに冒頭の一句、「やまとうたは、人の心を種としてよろずの言の葉とぞなれりける」の内容ですが、『詩経』(「毛詩」ともいいますが)の中に「詩というものは心を表すものである。心をかたちにするものである」という言葉があり、それを踏まえています。

 しかし、注目していただきたいのは、「人の心を種として、よろづの言の葉…」というときに、「言葉」の意味で、葉っぱを表す字を用いて「言の葉」と言っているところ、これは(種の)縁語に当たります。さらにその後、「世の中にある人、こと・わざしげきものなれば」の「しげきなる」というのも「茂っている」の「しげ」ですから、これもまた葉の縁語になっているわけです。

 つまり、「(歌は)心を言葉で表すものだ」という趣旨は中国から来たものですが、それを植物の比喩によって、植物に「よそえて」表現しているところが、非常に独自といいますか、独創的なところです。それは、やはり歌が生まれるところには生命感があり、生命が宿っているという信念が背景にあるのだろうと捉えてみたいと思います。


●ものに「託して表現する」――意味を二重に織り重ねる掛詞の技法


 それから「心に思ふことを見るもの聞くものにつけて...

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