『古今和歌集』仮名序を読む
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
やまとうたは人の心を種として…「託す」表現の神秘的な力
『古今和歌集』仮名序を読む(2)和歌とは何か
芸術と文化
渡部泰明(東京大学名誉教授/国文学研究資料館館長)
「仮名序」の冒頭では、和歌の機序とその機能が説かれる。「人の心を種」として「多くの言葉」として茂ってきたのが歌であり、歌は「天地を動かす」力を持っているというのだ。こうした内容の表現に縁語や掛詞の技法をふんだんに用いることで、仮名序は『古今和歌集』の真髄を表している。(全6話中第2話)
時間:10分27秒
収録日:2023年7月5日
追加日:2023年11月15日
カテゴリー:
≪全文≫

●人の心を種としてよろづの言の葉とぞ――植物の比喩で生まれる生命感


 まず、読みます。

 「やまとうたは、人の心を種としてよろづの言の葉とぞなれりける。世の中にある人、こと・わざしげきものなれば、心に思ふことを見るもの聞くものにつけて言ひ出せるなり。花に鳴く鶯、水にすむかはづの声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける。力をも入れずして天地(あめつち)を動かし、目に見えぬ鬼神(おにがみ)をもあはれと思はせ、男女の仲をもやはらげ、猛き武士(もののふ)の心をもなぐさむるは歌なり」

 では、訳してみます。

 「和歌は人の心を種として、多くの言葉となったものである。この世に生きる人は関わり合う事柄がまことに多いので、心に思うことを、見るものや、聞くものに託して歌に詠むのである。花に鳴くウグイスや、水にすむカワズの声を聞くと、全て生命あるもので歌を詠まないものはない。力を入れないで天地を動かし、目に見えない心霊を感動させ、男女の仲を打ち解けさせ、荒々しい武士の心をなだめるのが歌というものである」

 これは冒頭の大変有名な部分です。その中でもさらに冒頭の一句、「やまとうたは、人の心を種としてよろずの言の葉とぞなれりける」の内容ですが、『詩経』(「毛詩」ともいいますが)の中に「詩というものは心を表すものである。心をかたちにするものである」という言葉があり、それを踏まえています。

 しかし、注目していただきたいのは、「人の心を種として、よろづの言の葉…」というときに、「言葉」の意味で、葉っぱを表す字を用いて「言の葉」と言っているところ、これは(種の)縁語に当たります。さらにその後、「世の中にある人、こと・わざしげきものなれば」の「しげきなる」というのも「茂っている」の「しげ」ですから、これもまた葉の縁語になっているわけです。

 つまり、「(歌は)心を言葉で表すものだ」という趣旨は中国から来たものですが、それを植物の比喩によって、植物に「よそえて」表現しているところが、非常に独自といいますか、独創的なところです。それは、やはり歌が生まれるところには生命感があり、生命が宿っているという信念が背景にあるのだろうと捉えてみたいと思います。


●ものに「託して表現する」――意味を二重に織り重ねる掛詞の技法


 それから「心に思ふことを見るもの聞くものにつけて...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫
深掘りシェイクスピア~謎の生涯と名作秘話(1)シェイクスピアの謎
シェイクスピアの謎…なぜ田舎者の青年が世界的劇作家に?
河合祥一郎
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
岡倉天心『茶の本』と日本文化(1)岡倉天心の生涯
岡倉天心の『茶の本』…世界に向けた日本伝統文化の発信
大久保喬樹
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子

人気の講義ランキングTOP10
編集部ラジオ2025(24)「理解する」とはどういうこと?
学力喪失と「人間の理解」の謎…今井むつみ先生に聞く
テンミニッツ・アカデミー編集部
クーデターの条件~台湾を事例に考える(6)クーデターは「ラストリゾート」か
中国でクーデターは起こるのか?その可能性と時期を問う
上杉勇司
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実
不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?
垂秀夫
いま夏目漱石の前期三部作を読む(1)夏目漱石を読み直す意味
メンタルが苦しくなったら?…今、夏目漱石を読み直す意味
與那覇潤
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
伊能忠敬に学ぶ「第二の人生」の生き方(1)少年時代
伊能忠敬に学ぶ、人生を高めて充実させる「工夫と覚悟」
童門冬二
続・日本人の「所得の謎」徹底分析(3)戦前から紐解く財政構造
日本も資産格差は案外大きい?…預金の偏在と世代格差
養田功一郎
経験学習を促すリーダーシップ(2)経験から学ぶ力
米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長
松尾睦