『古今和歌集』仮名序を読む
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難波津の歌、安積山の言葉…隠喩・直喩の「よそえる」表現
『古今和歌集』仮名序を読む(3)和歌の始まり
渡部泰明(東京大学名誉教授/国文学研究資料館館長)
和歌の始まりとして、天の下照姫、地の素戔嗚尊(スサノオノミコト)が引かれ、天地開闢の神話時代に遡る始原が説き起こされる「仮名序」。さらに誰もが知る「難波津の歌」「安積山の言葉」が歌の父母として紹介されるのだが、そこですでに「託す」という方法が確立されている点が強調されているのである。(全6話中第3話)
時間:8分01秒
収録日:2023年7月5日
追加日:2023年11月22日
カテゴリー:
≪全文≫

●最初の三十一文字はスサノオノミコトの作


 (2)和歌の始まり。

 〈この歌、天地(あめつち)の開け始まりける時より出で来にけり。

しかあれども世に伝はることは、ひさかたの天にして下照姫にはじまり、

あらかねの地(つち)にしては素戔嗚(すさのをの)尊(みこと)よりぞ起こりける。ちはやぶる神世には歌の文字もさだまらず、すなほにして事の心わきがたかりけらし。人の世となりて素戔嗚尊よりぞ、三十(みそ)文字余りひと文字はよみける。〉

 まず、ここのところまでで切っておきましょう。訳してみます。

 「この歌というものは天地開闢と共に出現した。しかし、この世に伝わったのは天上世界においてはシタテルヒメに始まり、地上ではスサノオノミコトから始まった。神世には歌の定型も定まっておらず、自然のままで、物事の内容をきちんと言語化しにくかったのだろう。人の世となってスサノオノミコトから三十一字の和歌を詠むようになった。」

 その最初の和歌として、しばしば挙げられるのが「八雲立つ出雲八重垣妻ごめに八重垣つくるその八重垣を」で、おそらくこの歌を念頭に置いて述べているのだろうと思います。

 スサノオノミコトは、いうまでもなくイザナギ・イザナミの子どもで、アマテラスの弟です。高天原を追い出され、出雲に下ってクシナダヒメと結婚しました。その結婚に際しての歌だというわけです。

 「八色の雲の立つ」と、平安時代では解釈されていますが、これは出雲の枕詞です。「出雲の八重垣を」ですが、大切な妻を据えておくために何十もの垣を作った、その八重垣を作ったという、いわば妻を称える歌ですね。そういう歌をスサノオノミコトが詠んだとされています。それを念頭に置いているのだろうと思います。


●仁徳天皇の御代を歌った「難波津の歌」は歌の父のようなもの


 続けます。

 〈難波津の歌は帝の御はじめなり。大鶺鴒(おほさざき)の帝の難波津にて皇子ときこえける時、東宮をたがひにゆづりて位につきたまはで三年になりにければ、王仁(わに)といふ人のいぶかり思ひてよみてたてまつりける歌なり。この花は梅の花をいふなるべし。安積山の言葉は采女のたはぶれよりよみて、このふたうたは歌の父母のやうにてぞ、手習ふ人の始めにもしける〉

 「難波津の歌は仁徳天皇の御代の初めに際しての歌である。安積山の歌は采女が座興で詠んだ歌で、こ...

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