●なぜ江戸時代に「歌占本(うたうらぼん)」が大流行したか
―― 平野先生、今(第3話で)お話しいただいた謡曲についてですが、梓弓で歌占をするというのは室町時代のお話だというところですけれども、そこからさらに時代が下って江戸の時代になってくると、今度は「歌占本(うたうらぼん)」というようなものが流行っていくということになるわけですね。どうしてそういうものが流行るということになるのでしょうか。
平野 江戸時代は基本的にいろいろな占いが流行った時代なのです。なので、その中で和歌の占い、歌占というのが流行ってきたというのは一つあると思います。
それからもう1つは、先ほど(第3話で)お話しした漢詩のおみくじが江戸時代に流行っていくのですけれども、その流行を受けて、歌占の本も「歌占みくじ」といわれるようになって、いろいろな本が作られるようになっていくというのもありますね。
―― なるほど。今回、その貴重な資料を先生にお持ちいただいているのですけれども、これがまず、『元三大師(御籤)』(がんさんだいしみくじ)という漢詩のものですね。
平野 はい。
―― 先生、これは何年くらいの本になるのですか。
平野 17世紀の後半くらいの漢詩みくじの本です。ここを見ていただくと分かるように、挿絵と、それから五言絶句ですけれども漢詩4行の漢詩と、その下に少しだけ解説が書いてあります。なので、漢詩みくじの本の中でも初期のものです。
―― このような本が流行によって、こんな小さい本にもなるということで、本の中も、ずいぶん細かいですね。
平野 ええ。すごく流行してくるので、身近に持ち歩いて、いつでも占いたいというような形で、このような小さな本も出版されています。
―― 持ち運び用ということですね。
平野 そうですね。
―― 最初に漢詩みくじでこういう本ができて、それに影響を受けて和歌も本になっていくということで、先生にお持ちいただいたのがこちらでございましょうか。これは、先ほどと同じように開かせていただくと、こうなってくるというところですね。
平野 そうですね。ここに「大吉」と書いてあるのですけれども、もともと歌占には吉凶はついていなかったのです。それが、『元三大師御籤』に吉凶がついていましたので、その影響を受けて、やはり分かりやすいので、歌占本も吉凶がついてくるようになってくると...