もののあはれと日本の道徳・倫理
この講義シリーズの第1話
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
不倫へのバッシングを「もののあはれ」的にはどう考えるか
もののあはれと日本の道徳・倫理(3)「不倫の恋」ともののあはれ
哲学と生き方
板東洋介(東京大学大学院人文社会系研究科 准教授)
『源氏物語』で描かれる恋愛の中心は「不倫の恋」である。インモラル(不道徳)ともいわれるその物語に、「もののあはれ」という倫理の基礎を見いだした本居宣長。そこには、切実な「あはれ」を歌や物語といった芸術的にものに描写することと実際に行動に移すことは違う、つまりそれを行為として実践してしまったら処罰されて仕方がない、という宣長の分別があった。そこで今回は、『古今集』に始まる天皇公認の和歌集の中で詠われてきた歌の世界で「不倫の恋」がどう扱われてきたのか、中国の『詩経』の話も交えながら、「もののあはれ」という視点から解説する。(全4話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:9分39秒
収録日:2023年8月4日
追加日:2024年2月1日
≪全文≫

●「あはれ」を歌にすることはよしとした本居宣長の道徳観


―― これ(本居宣長の「もののあはれ」論、道徳についての考え)も、どういうことかということを少し現代的な例など取りながら考えていきたいと思います。

 例えば今、日本ですと、特に芸能人の不倫が起きたときにSNSなどでも、メディアもそうですけれども、大変なバッシングが起きてくるということがあります。そのような不倫バッシング的なものがあったときに、宣長的な「もののあはれ」だと、どうこれを捉えるのかというところです。先生はそこをどのようにお考えですか。

板東 これはすごく宣長の議論の難しいところで、宣長は、要するに不倫物語である『源氏物語』を一生愛しましたし、肯定しましたので、不倫を芸術的に描写することは良い。かつ不倫に走ってしまうほどの当事者たちの思い自体は肯定します。それを持つなとは言いません。人間だからそういう思いが生じるのは自然だけれども、それを本当にやっていいかどうかは別のことであるという、ちょっと不思議で、実践的な次元ではそういうことをしてはいけないという、ごく普通の道徳を宣長は持っているわけです。

 そうしてしまいかねないほど、人間がそういう情念を持つことは肯定する。かつ、それを本当にやらずに、歌や文学という形で表現することも肯定する。それで宣長が言うのは、そうやって歌とか、物語という形で表現してしまうとなぐさまるというか、本当にやらずに済むということです。

 宣長が挙げるのは僧侶の恋の例です。歌などで、男性が多いけれども、恋自体を禁止されている僧侶が異性に恋をしてしまう。『古今集』に始まる公式の天皇公認の和歌集の中にはたくさん僧侶の恋を詠った日本の勅撰集があります。絶対に許されない「不倫の恋」というわけです。

 だけれども、それを歌として詠うことは許されているし、ということはそういう思いを持つことも許されている。だから、もちろん僧侶がそれで女性に手を出すことがいけないのは社会規範として当たり前なのだけれども、そういう思いを持ってそれを詠ってしまうことまでは許すというのが日本の道であるということです。

 本当に他者の切実な「あはれ」が思いとしてあって、それをため息として、歌として漏らすところまでは許す...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
世界神話の中の古事記・日本書紀(1)人間の位置づけ
世界神話と日本神話の違いの特徴は「人間の格づけ」にある
鎌田東二
【入門】日本仏教の名僧・名著~総論(1)名僧の原著に触れる意味
「文は人なり」――原文を読んで名僧の思想の息吹に触れる
賴住光子
おもしろき『法華経』の世界(1)法華経はSFだ!
「法華経はSFだ!」というナラティブの神秘的体験
鎌田東二
現代人に必要な「教養」とは?(1)そもそも教養とは何か
教養とは…本質を捉える知、他者を感じる力、先頭に立つ勇気
小宮山宏
哲学から考える日本の課題~正しさとは何か(1)言葉の正しさとは
「正しい言葉とは何か」とは、古来議論されているテーマ
中島隆博
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム
ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識
長谷川眞理子

人気の講義ランキングTOP10
経験学習を促すリーダーシップ(2)経験から学ぶ力
米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長
松尾睦
続・日本人の「所得の謎」徹底分析(1)各国の財政と国民負担
日本と各国の比較…税負担は低いが社会保障の負担は高い
養田功一郎
海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ
地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か
沖野郷子
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博
未来を知るための宇宙開発の歴史(9)宇宙開発を継続するための国際月探査
「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味
川口淳一郎
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
「アカデメイア」から考える学びの意義(2)プラトンの学園アカデメイア
プラトン「アカデメイア」の本質は自由な議論と哲学的探究
納富信留
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
片山杜秀
大統領に告ぐ…硫黄島からの手紙の真実(4)百年後の日本人のために
百年後の日本人のために、共に玉砕する仲間たちのために
門田隆将
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(3)共同保育を現代社会に取り戻す
狩猟採集生活の知恵を生かせ!共同保育実現に向けた動き
長谷川眞理子