和歌のレトリック~技法と鑑賞
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「掛詞」ー和歌の代表的なレトリックの魅力
和歌のレトリック~技法と鑑賞(4)掛詞:その1
渡部泰明(東京大学名誉教授/国文学研究資料館館長)
渡部泰明氏が百人一首を例にとりながら、代表的な和歌のレトリックについて解説するシリーズレクチャー。今回取り上げるのは「掛詞」について。掛詞は単に言葉のしゃれというものではなく、わが身の在り方や心情と、場や風景、世の中やモノの在り方など、2つのものを重ねて表現する技法だ。小野小町や蝉丸などの歌を例に、掛詞というレトリックの魅力に迫る。(全12話中第7話)
時間:10分04秒
収録日:2019年6月17日
追加日:2020年1月13日
カテゴリー:
≪全文≫

●掛詞は和歌のレトリックの中でも代表的、かつ最も基本的なもの


 古典和歌における掛詞についてお話しいたします。

 掛詞というのは、日本語にとても数の多い同音異義語を利用して、いわば言葉のしゃれのようにして使うレトリックです。今「しゃれ」と申しましたが、なぜそういう言葉のしゃれのようなもの、あるいはだじゃれのようなものが使われるのか、長い間、私自身はよく分かりませんでした。それについて考えたことを、今日はお話ししたいと思います。

 掛詞についてはたくさんの例があるのですが、その中でも大変に有名な百人一首の歌を例にお話しします。掛詞は、和歌のレトリックの中でも代表的なもの、そして最も基本的なもの、といってかまわないと思います。それは一体どういうことでしょうか。そして、なぜそれほど使われるのでしょうか。


●掛詞とは2つの文脈をのり付けしているような状態


 最初にこの歌を取り上げてみたいと思います。喜撰法師の歌です。

「我が庵は
 都のたつみ しかぞすむ
 世をうぢ山と 人はいふなり」

 これは、「私の庵は都の東南にあって、このように安らかに過ごしている。しかし、都の人たちは私が世を厭(いと)って宇治山にいるんだとうわさしているようです」という歌です。この中で「世をうぢ山」というところに掛詞があります。「うぢ山」という地名に宇治の山、その「う」のところに「憂し」が掛けられているのです。

 掛詞は、ちょうど2本テープがあってそれをのり付けしているような状態です。そののり付けしてある部分が掛詞なのです。これを引きはがして2つのテープ(この場合、文脈とお考えいただければ分かりやすいと思うのですが)、それぞれその2つの文脈に分解して考えればいいわけです。上の歌の場合でいえば、「世の中を憂しと思う」という文脈と「宇治山で過ごしている」という地名を表す文脈、その2つがあるということになります。


●自分の気持ちの問題と地名を掛けている喜撰法師の歌


 この場合、喜撰法師は強がりを言っていると考えればいいでしょうか。「私は世の中を捨てて、宇治山で過ごしている」ということですが、―宇治は今ももちろんあります。近くに宇治川が流れており、平等院鳳凰堂のあるところですが、昔は隠遁する場所というようなイメージがありました。そういう...

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