和歌のレトリック~技法と鑑賞
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和歌における序詞の役割と意味は「呪文」?
和歌のレトリック~技法と鑑賞(2)序詞:その2
渡部泰明(東京大学名誉教授/国文学研究資料館館長)
和歌の中で序詞はどのような役割を担っているのだろうか。渡部泰明氏は、和歌における呪文としての役割を提唱する。呪文とはいったいどういうことなのか。前話に続き、序詞について解説する。(全12話中第4話)
時間:10分30秒
収録日:2019年3月11日
追加日:2019年6月23日
カテゴリー:
≪全文≫

●集団で共有される記憶を作り上げる呪文としての序詞


 私は序詞というのは、集団で共有される記憶をつくり上げる呪文であると考えます。なかなか分かりにくい表現かもしれません。特に、記憶をつくり上げるという部分が、分かりにくいかと思いますので、ご説明いたします。

 一つの例として、『古今集』の歌を挙げましょう。

「春日野の雪間を分けて生ひ出で来る草のはつかに見えし君かも」

 これは壬生忠岑の歌です。この歌が詠まれた情景に関してご説明します。壬生忠見は、奈良で行われる春日祭に出掛けました。これは、春日大社で行われる大変大きなお祭りです。それを都人が見に行くのです。その時に女性たちも見物に出てきます。ですが、高貴な女性は牛車で行くので、顔は見せないようにしています。しかし、それに目を付けた男が壬生忠岑だったのです。「あ、すてきな女性がいる」と思って、どういう顔をしているかは分からないのですが、その家を訪ねてラブレターを送りました。その際の歌がこれです。

 「春日野に積もった雪の間から萌え出てくる草の姿はほんのわずか。わずかに姿を見せたあなただった」という意味です。チラッと見た、あるいは、すだれに映るシルエットでも見たのか、その点を歌っているのでしょう。

 この場合、「春日野の雪間を分けて生ひ出で来る草の」までが序詞です。わずかにという意味の「はつかに」という言葉を導き出す序詞になっています。この序詞は、確かに「はつかに」を導き出すためだけに用いられていますが、全くこの場と関係ないわけではありません。むしろ非常に深く関わっています。

 春日野で行われる春日祭にちなんで、また春日祭が行われる季節にもちなんで、雪の間から出てくる草という言い方をしているのです。

 まず、「春日野の」と言う部分で、大きな場所が示されます。そして「雪」ですが、一面に雪がまだ残っているわけです。ところが、その雪の間からわずかに草が出てきている。謎めいていますね。読者は、きっとハラハラしながら、一体何なのだろうと思うはずです。

 そして、最後の部分で「はつかに」、つまりわずかに出てきた草のように、わずかにあなたを見た、そして恋をしてしまったということです。チラッと見ただけでも恋をしてしまいまうものですから。その恋という結論に向けて、まるで自分でもどうしようもない運命に翻弄されてい...

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