和歌のレトリック~技法と鑑賞
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
第1話へ
▶ この講義を再生
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
(会員の方に広告は表示されません)
わが身と場が運命的に重なるものとして使うのが掛詞
和歌のレトリック~技法と鑑賞(4)掛詞:その2
渡部泰明(東京大学名誉教授/国文学研究資料館館長)
今回、百人一首の中から紹介する和歌は、いずれも大変技巧的に凝ったものだ。私たちは「技巧的」というと表面的で心がこもらないと思いがちだが、和歌のレトリックは気持ちをきれいに包装して相手にわたすような技法だと渡部泰明氏は言う。その中でも掛詞は、特定の場におけるわが身の在り方を、他に変えようのない言葉で伝える重要な技法である。(全12話中第8話)
時間:12分26秒
収録日:2019年6月17日
追加日:2020年1月22日
カテゴリー:
≪全文≫

●掛詞の中に気持ちが凝縮されている在原行平の歌


 次へいきます。中納言行平、すなわち在原行平です。在原業平のお兄さんで、在原業平とは異母兄弟です。

「立ち別れ
いなばの山の 峰に生(お)ふる
まつとし聞かば いま帰りこむ」

「あなたとお別れして因幡の国へ行ってしまったならば、その因幡の国に生える松ではないですけれども、あなたが待っていると聞いたら、すぐに帰ってきましょう」という歌で、やはり2つの掛詞が用いられています。

「いなば」は、今の鳥取県ですが地名の因幡と、動詞の「往なば」(動詞の「往ぬ」に「ば」がくっついた「行ってしまったなら」)という2つの掛詞で、「まつ」は、植物の松と「待っている」という2つの掛詞になっています。両方とも地名だったり植物であったりと、いわば物と人の在り方とが重ねられていることにご注意してください。

 在原行平は38歳で因幡の国の国司に任名されて京から出発しました。西暦でいうと855年ですね。この歌は、そのお別れの宴会の時に詠んだ歌ということになっています。「私は因幡の国司として出かけなければいけませんけれども、皆さんが待っていてくだされば、すぐにでも帰ってまいります」ということで、要するにお別れの宴会を催してくれた人たちに挨拶しているわけです。もちろん任務がありますから、いくら待っていると言われてもすぐに帰ってくるわけにはいきません。しかし、そのように言うことで皆の気持ちに応えて挨拶をしたという、気持ちの問題なのです。

 それを和歌にしたわけですし、その中でも掛詞である「いなば」と「まつ」ですが、ここに「行かなければならないんですよ」という気持ちと、しかし「待っていてくださいね」と願う気持ちと、それらが掛詞の中に凝縮しているということに、どうかご注意ください。


●元良親王のたぎる心を掛詞で味わう


 次の歌を見てみたいと思います。元良(もとよし)親王の歌です。

「わびぬれば
今はた同じ 難波なる
みをつくしても 逢はむとぞ思ふ」

 これは元良親王が恋愛事件を起こしたのですね。その大きなスキャンダルの中で詠んだ歌です。「わびぬれば」の「侘ぶ」というのは苦しむとか困窮するということですが、「もうどうせ苦しみぬいているんですから、今となっては同じことです。難波―今の大阪府、大阪湾の辺りに大きな湿地帯があり、港でもあったわけで...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
(会員の方に広告は表示されません)
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
バッハで学ぶクラシックの本質(1)リベラルアーツと音楽
音楽の父バッハ…なぜ「音楽」が西洋でリベラルアーツなのか?
樋口隆一
「万葉集」の聖徳太子――語りかける人(1)日本人の憧れ
聖徳太子と日本人…「実在しなかった」説の真相とは?
上野誠
石原慎太郎と三島由紀夫と近衛文麿(1)政治家・石原慎太郎の源流と核の問題
石原慎太郎と三島由紀夫と近衛文麿…対比で見えてくる現代的課題
片山杜秀
古関裕而・日本人を応援し続けた大作曲家(1)恩師との出会い
六甲おろし、栄冠は君に輝く、長崎の鐘…古関裕而の魅力
刑部芳則
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』を読む(1)あらすじと賢治の原稿
未完の長編『銀河鉄道の夜』の魅力と宮沢賢治の思想に迫る
鎌田東二

人気の講義ランキングTOP10
「満洲」から考える日本とアジア(1)「満洲」を知る意義とは
「満洲史」はなぜ現代日本でタブー視されるのか?…王道楽土の夢とアヘンなどの裏面から見えてくる現代への教訓
宮脇淳子
『オデュッセイア』で読み解く神話の秘密(1)物語の構造を読み解くおもしろさ
『オデュッセイア』の面白さの秘密を神話の構造から読み解く…なぜ波乱万丈の神話が人間の創作の源泉になったか
松村一男
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
モンゴル帝国の世界史(1)日本の世界史教育の大問題
なぜ日本の「世界史」はいびつなのか…東洋史と西洋史の違い
宮脇淳子
教養としての「ユダヤ人の歴史とユダヤ教」(1)ユダヤ人とは誰のことか
ユダヤ人とは?なぜ差別?お金持ち?…『ユダヤ人の歴史』に学ぶ
鶴見太郎
AI時代と人間の再定義(1)AIは思考するのか
AIでは「思考の三位一体」が成立しない…考えるとは?
中島隆博
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
ヒトはなぜ罪を犯すのか(1)「善と悪の生物学」として
ヒトが罪を犯す理由…脳の働きから考える「善と悪」
長谷川眞理子
企業改革の核心は何か(1)組織の危機をいかに克服するか
V字回復のためには社員に「個人の痛み」を迫る覚悟を持て
三枝匡
編集部ラジオ2026(31)鶴見太郎先生の「公開収録」のご案内
【公開収録のご案内】鶴見太郎先生:ユダヤ人と世界史…その歴史の教訓とは
テンミニッツ・アカデミー編集部