和歌のレトリック~技法と鑑賞
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紫式部が友を思い詠んだ歌…和歌における縁語の効果
和歌のレトリック~技法と鑑賞(5)縁語:その2
芸術と文化
渡部泰明(東京大学名誉教授/国文学研究資料館館長)
和歌のレトリックの1つ、縁語についてのレクチャーの後編。今回紹介する藤原公任、紫式部、小式部内侍、藤原基俊の歌は、いずれも縁語を駆使した非常に技巧的に優れたものばかりだ。相手への称賛や友情、自らの無実の証明や複雑な状況に対する恨み言など表されるものはさまざまだが、いずれも言葉の偶然の一致を利用して相手の心に働きかけている。(全12話中第10話)
時間:16分07秒
収録日:2019年6月17日
追加日:2020年2月4日
カテゴリー:
≪全文≫

●平安王朝最高の文化人藤原公任の歌


 次にまいります。大納言公任こと藤原公任(きんとう)の歌です。

「滝の音は
たえて久しく なりぬれど
名こそ流れて なほ聞こえけれ」

「滝の音は絶えて、もう長い年月がたったけれども、しかしその評判は今でも流れてきて、われわれのもとに伝わっている」という歌です。

 ここでは技巧だけまず先に説明しますと、「滝」に対して、「たえ」は「絶える」、「なりぬれど」の「なり」は「鳴る」。滝はゴーゴーと鳴りますね。ですから、「鳴滝」などという言葉もあります。また、滝は流れるものですから「名こそ流れて」の「流れ」、そして「聞こえ」は滝の音が聞こえてくるということで、「聞こえ」も縁語になります。「滝、たえ(絶え)、なり(鳴り)、聞こえ」という大変たくさんの縁語で構成されている歌です。

 平安時代、王朝最盛期の紀元1000年ごろのおそらく最高の文化人といってもいい藤原公任らしい技巧的な歌です。これは一体どういう場で詠まれたのかというと、結構細かいところまで分かっているのですが、長保元(999)年、当時最大の権力者である藤原道長の一行が、嵯峨のあたりにハイキングに行きました。大勢で行ったのですが、そこに同行したのがこの藤原公任でした。そして、今もありますが嵯峨にある大覚寺の滝殿の跡を見て詠んだものです。


●称賛の心を伝えるとき威力を発揮する縁語


 滝というのは、那智の滝とか華厳の滝とか、われわれはどうしても上からドーッと流れ落ちる滝をイメージします。しかし、そこまででなくても、滝というのは本来たぎり流れるものです。つまり「たぎる」の「たき」から来ているので、急流のことを基本的に滝というわけです。庭園を造るとき、急流を模してつくったそれを滝といい、その場所のことを滝殿といったわけです。その滝殿は公任たちが訪れたときにはすでに跡だけになっていて、水は流れていなかったのです。そのことを詠んだわけですが、「昔から大変有名な、今でもその評判は聞こえるんだ」と述べています。

 それだけ元々は素晴らしいものだったんだ、ということですが、結局これは滝殿を誉めているだけではなくて、それ以上に道長一行を誉めているのですね。「こういう雅な行事をした道長さん、なんて偉いんだ」とこの行事を記念するため、ちょうどわれわれが何か行事を行ったとき、記念式典を行ったと...

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