和歌のレトリック~技法と鑑賞
この講義シリーズは第2話まで
登録不要で無料視聴できます!
第1話へ
▶ この講義を再生
この講義の続きはもちろん、
6,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
(会員の方に広告は表示されません)
紫式部が友を思い詠んだ歌…和歌における縁語の効果
和歌のレトリック~技法と鑑賞(5)縁語:その2
渡部泰明(東京大学名誉教授/国文学研究資料館館長)
和歌のレトリックの1つ、縁語についてのレクチャーの後編。今回紹介する藤原公任、紫式部、小式部内侍、藤原基俊の歌は、いずれも縁語を駆使した非常に技巧的に優れたものばかりだ。相手への称賛や友情、自らの無実の証明や複雑な状況に対する恨み言など表されるものはさまざまだが、いずれも言葉の偶然の一致を利用して相手の心に働きかけている。(全12話中第10話)
時間:16分07秒
収録日:2019年6月17日
追加日:2020年2月4日
カテゴリー:
≪全文≫

●平安王朝最高の文化人藤原公任の歌


 次にまいります。大納言公任こと藤原公任(きんとう)の歌です。

「滝の音は
たえて久しく なりぬれど
名こそ流れて なほ聞こえけれ」

「滝の音は絶えて、もう長い年月がたったけれども、しかしその評判は今でも流れてきて、われわれのもとに伝わっている」という歌です。

 ここでは技巧だけまず先に説明しますと、「滝」に対して、「たえ」は「絶える」、「なりぬれど」の「なり」は「鳴る」。滝はゴーゴーと鳴りますね。ですから、「鳴滝」などという言葉もあります。また、滝は流れるものですから「名こそ流れて」の「流れ」、そして「聞こえ」は滝の音が聞こえてくるということで、「聞こえ」も縁語になります。「滝、たえ(絶え)、なり(鳴り)、聞こえ」という大変たくさんの縁語で構成されている歌です。

 平安時代、王朝最盛期の紀元1000年ごろのおそらく最高の文化人といってもいい藤原公任らしい技巧的な歌です。これは一体どういう場で詠まれたのかというと、結構細かいところまで分かっているのですが、長保元(999)年、当時最大の権力者である藤原道長の一行が、嵯峨のあたりにハイキングに行きました。大勢で行ったのですが、そこに同行したのがこの藤原公任でした。そして、今もありますが嵯峨にある大覚寺の滝殿の跡を見て詠んだものです。


●称賛の心を伝えるとき威力を発揮する縁語


 滝というのは、那智の滝とか華厳の滝とか、われわれはどうしても上からドーッと流れ落ちる滝をイメージします。しかし、そこまででなくても、滝というのは本来たぎり流れるものです。つまり「たぎる」の「たき」から来ているので、急流のことを基本的に滝というわけです。庭園を造るとき、急流を模してつくったそれを滝といい、その場所のことを滝殿といったわけです。その滝殿は公任たちが訪れたときにはすでに跡だけになっていて、水は流れていなかったのです。そのことを詠んだわけですが、「昔から大変有名な、今でもその評判は聞こえるんだ」と述べています。

 それだけ元々は素晴らしいものだったんだ、ということですが、結局これは滝殿を誉めているだけではなくて、それ以上に道長一行を誉めているのですね。「こういう雅な行事をした道長さん、なんて偉いんだ」とこの行事を記念するため、ちょうどわれわれが何か行事を行ったとき、記念式典を行ったと...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
(会員の方に広告は表示されません)
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
クラシック音楽で世界史がわかる…宗教音楽からクラシックへ
片山杜秀
「万葉集」の聖徳太子――語りかける人(1)日本人の憧れ
聖徳太子と日本人…「実在しなかった」説の真相とは?
上野誠
文明語としての日本語の登場(1)古代日本語の復元
なぜ「てふてふ」が蝶々?日本語の変遷を追う…まずは万葉仮名から
釘貫亨
『源氏物語』ともののあはれ(1)雅な『源氏物語』の再発見
『源氏物語』の謎…なぜ藤壺とのスキャンダルが話のコアに?
板東洋介
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子

人気の講義ランキングTOP10
ロシア人の見る「ロシアの歴史」(2)タタールのくびきと「第三のローマ」
なぜロシアが「第三のローマ」なのか?…東ローマ帝国とモンゴル帝国の根深い影響を探る
上月豊久
『「甘え」の構造』と現代日本(1)「甘え」のインパクト
「甘え」は現代においてダメなものなのか…名著『「甘え」の構造』への2種類の誤解とは?
與那覇潤
『オデュッセイア』で読み解く神話の秘密(1)物語の構造を読み解くおもしろさ
『オデュッセイア』の面白さの秘密を神話の構造から読み解く…なぜ波乱万丈の神話が人間の創作の源泉になったか
松村一男
編集部ラジオ2026(37)長谷川眞理子先生の公開収録!
【アンケート&公開収録】長谷川眞理子先生:男と女でどう違う?能力の高め方
テンミニッツ・アカデミー編集部
高齢者のフレイル・認知症とその予防対策(6)認知症予防と健康寿命の延伸に向けて
フレイル・サイクルは回り出したら抜けられない!?負のスパイラルへの対処法
小川純人
「満洲」から考える日本とアジア(1)「満洲」を知る意義とは
「満洲史」はなぜ現代日本でタブー視されるのか?…王道楽土の夢とアヘンなどの裏面から見えてくる現代への教訓
宮脇淳子
小澤開作と満洲事変・日中戦争(1)少年時代の苦労と五族協和の夢
満洲で「五族協和」に命を懸けた小澤征爾の父・小澤開作
小澤俊夫
「心から幸せになるためのメカニズム」を学ぶ(7)幸福度を高める方法
幸せも不幸せも伝染する――幸せの輪を広げて世界平和へ
前野隆司
『万葉集』と律令社会~官僚の心得と歌宴(1)国守・大伴家持と地方社会の日常
『万葉集』でわかる奈良時代の貴族と地方豪族の関係と日常…歌人・大伴家持の歌に秘められた国守時代の苦労話
上野誠
仏教とキリスト教が照らし出す日本の宗教(1)神とは何か、そして天皇とは?
日本と世界の「神と信仰」の違いは?…そして天皇の大切な役割
橋爪大三郎