和歌のレトリック~技法と鑑賞
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
菅原道真や在原業平の和歌にみる見立ての役割
和歌のレトリック~技法と鑑賞(3)見立て:その2
渡部泰明(東京大学名誉教授/国文学研究資料館館長)
見立ては表現を膨らませるテクニックでしかないのか。渡部泰明氏は、単なる技術としての見立てという見方から離れて、ある二つの役割を強調する。それはどのような役割なのか。菅原道真や在原業平の和歌を取り上げながら解説する。(全12話中第6話)
時間:10分36秒
収録日:2019年3月11日
追加日:2019年6月29日
カテゴリー:
≪全文≫

●見立ては世界の関連付けを広げる起爆剤となる


 さて、ここまで、見立ての原理的な在り方、基本的な在り方を解説してきました。ただ、ことさら見立てに着目してしまうと、見立てを表現するためだけに歌がつくられたという印象を受けます。しかし、そうした考え方では、その当時の歌人の意識とはずれてしまうだろうと思います。

 見立てが表現したいのではなく、彼らは良い歌をつくりたかった、あくまでもその意識が中心にあるのです。その中で、見立てはどのように働いたかという点が重要だと思います。最後に、当時の歌人の心に沿って、見立てを取り上げるとどうなるかということをお話ししたいと思います。

 一言でいうならば、見立ては別の言葉を引き寄せる起爆剤になっているといえます。いくつか例を見てみましょう。

「竜田姫たむくる神のあればこそ秋の木の葉の幣(ぬさ)と散るらめ」
「秋の山紅葉を幣とたむくればすむ我さへぞ旅ごこちする」
「神なびの山をすぎ行く秋なれば竜田河にぞ幣はたむくる」
「このたびは幣もとりあへず手向山紅葉の錦神のまにまに」

 最後の歌は、百人一首に所収されている大変有名な菅原道真の歌です。

 今取り上げた歌は、どれも散る紅葉を「幣(ぬさ)」に見立てています。幣とは、いろんな布を小さく切ったものです。旅の安全を祈るために、道祖神の神様、つまり旅の神様の前で幣をまき散らしていたのです。

 幣には当然さまざまな色があるので、それをまき散らすと、ちょうど紅葉が散るのとよく似ています。確かによく似ているのでしょう。そうして、紅葉を幣に見立てるという表現がありました。

 先ほどお話しした、紅葉を錦に見立てることと、この見立てが連動していることはお分かりいただけるかと思います。紅葉は錦のようです。そして、錦をチョキチョキ切ってしまえば、今度は幣になります。このように、幣の見立てが、紅葉と錦の見立てのいわば発展系として生まれてきたということが分かります。

 さらに、幣は旅の安全を祈って行う神事で用いられます。そうすると、神様や旅とも結び付き、世界が広がっていきます。一方で、まるで神様の仕業のようなこの美しい紅葉などと、別の方向にも世界がまた広がっていきます。神様の仕業というと少し変な言い方かもしれませんが、現代人の感覚からすれば、大自然の力への感動といったら良いかもしれません。...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純
おみくじと和歌の歴史(1)おみくじは詩歌を読む
おみくじは「吉凶」だけでなく「和歌や漢詩」を読むのが本当
平野多恵
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆
『源氏物語』を味わう(1)『源氏物語』を読むための基礎知識
源氏物語の基礎知識…人物関係図でみる物語の流れと読み方
林望
百人一首の和歌(1)謎の多い『百人一首』
『百人一首』の歌が選ばれた理由とは?今も残る3つの謎
渡部泰明
和歌のレトリック~技法と鑑賞(1)枕詞:その1
ぬばたまの、あしひきの……不思議な「枕詞」の意味は?
渡部泰明

人気の講義ランキングTOP10
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
熟睡できる環境・習慣とは(3)睡眠にいい環境とお風呂の入り方
布団に入る何分前がいい?入眠しやすいお風呂の入り方
西野精治
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解
偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動
島田晴雄
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
ストーリーとしての競争戦略(1)当たり前の重要さ
柳井正氏の年度方針「儲ける」は商売の本筋
楠木建