和歌のレトリック~技法と鑑賞
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
本歌そっくりだが知れば知るほど際立つ藤原雅経の歌の工夫
和歌のレトリック~技法と鑑賞(6)本歌取り:その2
芸術と文化
渡部泰明(東京大学名誉教授/国文学研究資料館館長)
和歌のレトリック「本歌取り」についてのレクチャー後編、今回は百人一首の中から2首を、それぞれの本歌とともに取り上げる。なかでも藤原雅経の歌「み吉野の山の秋風さ夜ふけて故郷寒く衣うつなり」」には、「本歌と大差ない」という批判をくつがえす、さまざまな工夫がちりばめられているという。その工夫とは?(全12話中第12話)
時間:15分53秒
収録日:2019年6月17日
追加日:2020年2月18日
カテゴリー:
≪全文≫

●天才歌人・藤原良経による一人寝の寂しさを詠んだ歌


 次に、後京極摂政太政大臣、すなわち藤原良経の歌を見てみましょう。

「きりぎりす
鳴くや霜夜の さむしろに
衣片敷き ひとりかも寝ん」

 「きりぎりす」、これは今のこおろぎのことだといわれています。「こおろぎが鳴いている霜夜」。「鳴くや」の「や」は先ほども出てきた「松島や」の「や」と同じで間投助詞です。意味はありません。語調を整えているだけです。こおろぎが鳴いている霜の降る夜ということで、寒い夜ですね。「さむしろ」は「狭いむしろ」と書きます。「さ」は「狭」です。要するに、みすぼらしいむしろということですが、そこに衣を片敷いて、つまり自分の衣だけ敷いてということで、一人寝の様子を表しています。「一人で寝るのだろうか」ということです。「かも」というのは疑問を表しているので、「一人で寝なければいけないのかなあ。さみしいなあ。一緒に寝床に入れたらなあ」という一人寝の寂しさを歌ったものです。

 これが『新古今集』時代、おそらく素人としては最も才能があったといわれている、天才歌人とも呼びたい藤原良経という歌人の歌です。


●宇治の橋姫という神話的イメージを持つ本歌


 この歌もやはり本歌を踏まえています。

「さむしろに
衣片敷き 今宵もや
我を待つらむ 宇治の橋姫」

 これは『古今集』の歌ですね。「さむしろに衣片敷き」、これが良経の歌にそっくりそのまま取られています。「みすぼらしいむしろに自分の衣だけをひいて、今宵も私を待っているだろうか、宇治の橋姫は」という歌です。宇治は大河である宇治川が流れていて、そこに宇治橋というものがある。大変重要な交通の要衝でもあったわけです。その宇治橋には橋姫がいるんですね。これは伝説的、神話的な存在ですので、実際に具体的な人間のことを比喩として「宇治の橋姫」と多分言ったのだろうと思います。

 ただ、この歌は読人しらずで非常に伝承的な、神話的な歌になっています。どういう状況で詠まれたのかはよく分かりません。でもあたかも宇治の橋姫という神話的な存在が、一人寝をしながら男神を待っている。そのようなイメージもあります。


●冬の寂しさと恋の孤独感の重ね合わせという妙味


 この本歌は恋の歌なわけです。良経の方は、冬の歌です。冬の寂しさを歌っています。霜が降るような冬に一人寝をす...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か
ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景
池上英洋
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
深掘りシェイクスピア~謎の生涯と名作秘話(1)シェイクスピアの謎
シェイクスピアの謎…なぜ田舎者の青年が世界的劇作家に?
河合祥一郎
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠

人気の講義ランキングTOP10
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム
ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識
長谷川眞理子
モンゴル帝国の世界史(2)チンギス・ハーンのカリスマ性
自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力
宮脇淳子
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
睡眠から考える健康リスクと社会的時差ボケ(5)シフトワークと健康問題
発がんリスク、心身の不調…シフトワークの悪影響に迫る
西多昌規
大統領に告ぐ…硫黄島からの手紙の真実(1)ルーズベルトに与ふる書
奇跡の史実…硫黄島の戦いと「ルーズベルトに与ふる書」
門田隆将
DEIの重要性と企業経営(4)人口統計的DEIと女性活躍推進の効果
日本的雇用慣行の課題…女性比率を高めても業績向上は難しい
山本勲
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
編集部ラジオ2025(18)音楽って実は数学でできている?
動画講義だからこそ音楽と数学の深い関係がよくわかる!
テンミニッツ・アカデミー編集部
「集権と分権」から考える日本の核心(2)非常時対応の中央集権と東アジア情勢
契機は白村江の戦い…非常時対応の中央集権国家と防人の歌
片山杜秀
田沼意次の革新力~産業・流通・貨幣経済(1)田沼意次の生い立ちとその時代
田沼意次とは?再評価で注目の人物像と時代背景に迫る
養田功一郎