和歌のレトリック~技法と鑑賞
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本歌そっくりだが知れば知るほど際立つ藤原雅経の歌の工夫
和歌のレトリック~技法と鑑賞(6)本歌取り:その2
芸術と文化
渡部泰明(東京大学名誉教授/国文学研究資料館館長)
和歌のレトリック「本歌取り」についてのレクチャー後編、今回は百人一首の中から2首を、それぞれの本歌とともに取り上げる。なかでも藤原雅経の歌「み吉野の山の秋風さ夜ふけて故郷寒く衣うつなり」」には、「本歌と大差ない」という批判をくつがえす、さまざまな工夫がちりばめられているという。その工夫とは?(全12話中第12話)
時間:15分53秒
収録日:2019年6月17日
追加日:2020年2月18日
カテゴリー:
≪全文≫

●天才歌人・藤原良経による一人寝の寂しさを詠んだ歌


 次に、後京極摂政太政大臣、すなわち藤原良経の歌を見てみましょう。

「きりぎりす
鳴くや霜夜の さむしろに
衣片敷き ひとりかも寝ん」

 「きりぎりす」、これは今のこおろぎのことだといわれています。「こおろぎが鳴いている霜夜」。「鳴くや」の「や」は先ほども出てきた「松島や」の「や」と同じで間投助詞です。意味はありません。語調を整えているだけです。こおろぎが鳴いている霜の降る夜ということで、寒い夜ですね。「さむしろ」は「狭いむしろ」と書きます。「さ」は「狭」です。要するに、みすぼらしいむしろということですが、そこに衣を片敷いて、つまり自分の衣だけ敷いてということで、一人寝の様子を表しています。「一人で寝るのだろうか」ということです。「かも」というのは疑問を表しているので、「一人で寝なければいけないのかなあ。さみしいなあ。一緒に寝床に入れたらなあ」という一人寝の寂しさを歌ったものです。

 これが『新古今集』時代、おそらく素人としては最も才能があったといわれている、天才歌人とも呼びたい藤原良経という歌人の歌です。


●宇治の橋姫という神話的イメージを持つ本歌


 この歌もやはり本歌を踏まえています。

「さむしろに
衣片敷き 今宵もや
我を待つらむ 宇治の橋姫」

 これは『古今集』の歌ですね。「さむしろに衣片敷き」、これが良経の歌にそっくりそのまま取られています。「みすぼらしいむしろに自分の衣だけをひいて、今宵も私を待っているだろうか、宇治の橋姫は」という歌です。宇治は大河である宇治川が流れていて、そこに宇治橋というものがある。大変重要な交通の要衝でもあったわけです。その宇治橋には橋姫がいるんですね。これは伝説的、神話的な存在ですので、実際に具体的な人間のことを比喩として「宇治の橋姫」と多分言ったのだろうと思います。

 ただ、この歌は読人しらずで非常に伝承的な、神話的な歌になっています。どういう状況で詠まれたのかはよく分かりません。でもあたかも宇治の橋姫という神話的な存在が、一人寝をしながら男神を待っている。そのようなイメージもあります。


●冬の寂しさと恋の孤独感の重ね合わせという妙味


 この本歌は恋の歌なわけです。良経の方は、冬の歌です。冬の寂しさを歌っています。霜が降るような冬に一人寝をす...

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